第15章 青の日々 (及川徹)
side you
2年ぶりの花火大会に柄もなく浮かれて浴衣なんて着ちゃったけど、ちゃんと似合ってるかな。慣れない草履と裾幅の狭い浴衣では思ったより歩くのに時間がかかってしまったけど、待ち合わせ場所に到着した私を及川が視界に入れるなり 可愛い と言ってくれた。
いつもと違う服。
いつもと違う髪型。
若干そわそわしている私の隣で穴が空くほど見つめてくる。可愛い と何度も伝えてくれるから不安だった気持ちはどこかへ飛んでった。代わりに岩泉から蹴りをお見舞いされてるけど。
人混みの中、私たちが歩いているのとは反対側に見えた屋台。いつもなぜか食べたくなる わたあめ屋さん。
「あれ食いてえの?」
一瞬目を向けただけで気づいてくれたのは岩泉。
『うん、食べたい』
「買ってきてやるからそこのベンチで待ってろな」
『え、悪いよ』
「気にすんな。及川、とそこで待っとけ」
及川に私を押し付けて人混みに消えていく岩泉は頼れるお兄ちゃんみたいだなあとつくづく思う。
―――
松川くんたちと及川がわちゃわちゃしてる間にわたあめを持った岩泉が戻ってきた。
『ありがと岩泉』
私の目の前に立つ岩泉が何も言わずに私の口元にわたあめを傾けてくれるから私も何も言わずにそれに口をつける。
「なぁ、前来た時もこれ食ってなかった?」
『うん、好きなの。』
「甘すぎねー?」
『こういう時にしか食べれないから来たら食べちゃう』
歯が溶けそうだと顔を歪ませる岩泉。去年は受験勉強で来られなかったから2年ぶりの花火大会。2年前は及川を含めた3人で来た。そのときも食べてたのを岩泉は覚えてたらしい。
2年前及川が誘ってくれた花火大会。2人きりで行くのはなんだか照れくさくて返事をするのに少し時間がかかった。見かねた及川が岩ちゃんも連れてくから、と提案してくれてようやく返事をしたんだっけ。
だから松川くんが声をかけてくれた時はふたつ返事で連絡を返した。できるだけたくさんの思い出を作りたい。大切な人達と過ごしたい。自分のことは自分が1番よく分かる。もう長くない人生、生まれてきてよかったと幸せな思い出をかかえて死にたい。