第15章 青の日々 (及川徹)
考えごとをしながら夢中でわたあめを頬張っていると聞こえてくる岩泉の声。それと同時にその手が髪に触れた。
「おい髪の毛食ってんぞ」
『ん、ありがと』
口元に巻き込んでいたサイドの髪の毛を優しく耳に掛けてくれた。お兄ちゃん通り越してもはやお母さんみたい。誰かに頼ったり甘えさせてもらったりはあまりして来なかったから毎回すごく新鮮な気持ちになる。岩泉には自然と甘えてしまってると自分で思うし。
口元と手についたわたあめがべたべたとしてきた。美味しくて可愛いこの食べ物の代償。
『ちょっと手洗ってくるね』
立ち上がった私を見て何か言いたげな及川よりも先に岩泉が口を開く。
「お前ナンパされっから及川連れてけ」
『されないって』
「されたら及川がだるい」
ここは大人しく従うが吉。
『はあい。及川お願いしてもいい?』
「もちろんだよ!俺が守るからねっ」
申し訳ないと思いつつ頼むと ぱっ と明るくなる及川の表情。本当に分かりやすくて可愛い人だな、なんて思ってしまう。
歩き始めてすぐ、人の流れに引き離されそうになって思わず及川の服の袖口を掴んだ。
『ごめん、人多くて…』
「あ、ぇと、腕…掴む?」
『ううん、今は手汚れてるからやめとく。』
ベタついた手で素肌に触れるなんてできないし断ったけど本当はもっと近くで感じたいなんて思ってる。
数の少ない水道には列ができていて2人で並んで他愛のない話をしていると聞き覚えのある、忘れもしない声に体が強ばった。
「あれぇ?ちゃん??」
『…っ』
「浴衣なんて着て気合い入れてきたの?及川くんはそんなこと無さそうだけど場違いってやつ?」
最悪だ。
声が出ない。
及川はぽかーんと何かを考え込んでる。ギャラリーで見学してる3年生だっけ、くらいに思ってるかな。
「え、無視?この前のこと忘れちゃった?警備員来て命拾いしたらしいけどもっかいされたいの?」
嫌な汗が背を伝う。
思い出したくもない。
せっかく少しずつ消化していたのに。