第15章 青の日々 (及川徹)
岩ちゃんが優しい…?
昔から岩ちゃんに優しくされると泣きそうになる。不意打ちで来るから こんなの聞いてない!ってなる。
『ちょっと手洗ってくるね』
綿あめでベタついた手を見てから俺たちに断りを入れるちゃん。あ、でもこんな人混み1人で行ったら危ない。
「お前ナンパされっから及川連れてけ」
『されないって』
「されたら及川がだるい」
『はあい。及川お願いしてもいい?』
「もちろんだよ!俺が守るからねっ」
もう!!岩ちゃんたら!!
ナイスアシストすぎるんだから!!
歩き出してすぐにくいっと袖が引っ張られる。
『ごめん、人多くて…』
「あ、ぇと、腕…掴む?」
『ううん、今は手汚れてるからやめとく。』
ありがとう、と言って袖からぱっと手を離すちゃん。今はってことは手洗ったらいいってこと??どういうこと?
『あ、水道ちょっと並んでるね』
「ほんとだね。俺達も並ぼっか。」
少しでき始めている列に2人で並んで他愛のない話をしていると彼女の名前を呼ぶ声がして、小さな体が緊張したように固くなった。
「あれぇ?ちゃん??」
『…っ』
「浴衣なんて着て気合い入れてきたの?及川くんはそんなこと無さそうだけど場違いってやつ?」
あれ、たまにギャラリーで部活見てる3年生達だ。なんでこんなに、棘のある言い方…そもそもちゃんてこの人達と面識あった…?
「え、無視?この前のこと忘れちゃった?警備員来て命拾いしたらしいけどもっかいされたいの?」
あ、こいつらなんだ。
あの日ちゃんを泣かせたのは。
一瞬で頭に血が上るのが分かる。
相手は女の人。分かってる。抑えなきゃいけない。
ちゃんを背中に隠すように立って見下ろすと一瞬で表情を変えるこの人たちが気持ち悪くて、腹立たしくて、許せない。
「及川くんてやっぱり近くで見ると背高いねぇ」
「もうちゃんに関わらないでください」
「え?」
驚いたように見開いた目が動揺に揺れてる。
「及川くんにチクったの?」
彼女を睨みつけて浴衣の袖を引っ張るからよろけてトン、と俺にぶつかった。ごめん、と小さく呟くちゃんがあまりにも震えてるから腸が煮えくり返りそうになる。