第15章 青の日々 (及川徹)
side you
息をするように私を好きだと口にする及川が俯く。
困らせたいわけじゃないって。
分かってる。
困ってなんかない。
むしろとても嬉しい。
私も及川と同じ気持ちだと伝えたらどんな顔をするかな。きっと喜んでくれるんだろうな。でも私は及川と一緒に大人になることができないから、私も好きだなんて無責任に伝えることが出来ない。
代わりに俯く綺麗な顔を覗き込んで手を重ねてみた。
「え、え、え…手…っ」
ばっと目を見開いて私を見る及川が動揺しつつも控えめに私の手を握り返す。こういうところちゃっかりしてる。
『及川は私にフィルターかけすぎだよ。触れただけでこんな反応されると意地悪したくなる笑』
「ま、って!待って待って…深呼吸させて…」
今の私にできる精一杯。
触れることくらいしかできないけど、ほんの少しでもこの手で及川を感じたかった。及川がこれから好きになる子はどんな子だろう。どうやって触れるんだろう。きっとすごく大切にするんだろうな。その子が羨ましいな…。
何度も深呼吸をした及川が真っ直ぐに私を見つめてからゆっくり口を開く。
「むり…好き。俺じゃだめ、かな?」
溢れてどうしようもないって顔。
何度も見てきたはずなのに胸が締め付けられる。
それでも私は平静を装って答えるんだ。
『うーん、私に恋人とか考えられないからなぁ…。』
私はきっと及川のバレーの邪魔になる。
立ち止まらせてしまうかもしれないから。
置いて逝ってしまう彼の手を取れない。
本当はあなたの恋人になりたいだなんて言ってしまえば戻れなくなる。生きたい、と縋ってしまう。
『及川にはもっと素敵な人がいると思うし』
これは本音。
きっと相応しいパートナーが現れる。
「いないよ。俺にはちゃんだけ。こんなに好きになれる人がいて俺はすっごい幸せなんだよ。」
なんの迷いもなく答える及川が私には眩しすぎる。私を好きで幸せなんだと言う及川が眩しくて、それに応えられないことが辛い。それなのに"大切"だと気づいてしまった。