第14章 初恋の君と (角名倫太郎)
痺れを切らした彼女達のひとりが角名くんに言う。
「その子が来てから角名変だよ…っ」
「なにが」
振り返りもせずに放つ言葉はやっぱり冷たい。
「ジャージなんて誰にも貸したことなかったじゃん。私が冬にジャージ忘れて外体育だった日も貸してくれなかったじゃない…っ」
「そうだっけ、覚えてない」
私を背中に隠すように立つ彼はまだ私の手を握っている。その熱が温かくて優しくて安心してしまう。
「この子ばっかり…朝も部活も放課後も…」
「部活は一緒なんだからそりゃ一緒にいるでしょ。」
「朝見かけてもこの子がいるから話しかけずらいし!」
私が来る前は角名くんとたくさんお話ができていたのかな。だとしたら私はほんとに邪魔なんだよね。好きな人のそばにいる同性なんてきっと嫌で仕方ないと思う。
「なんでちゃんが悪いみたいな言い方すんの?俺が一緒にいたくて頼んで朝一緒に来てんだよ。あんたの言ってた誰にもジャージ貸さなかった俺がちゃんには着てほしいって頼んでんの。意味わかるよね?」
「……っ転校してきてそんな日経ってないじゃん。なんでその子なの…っ!」
「あんたには言いたくない。もういい?」
私が悪く思われないように反論をしてくれる優しさに目元がじんわりと熱くなる。ますます勘違いしそうになってしまうような言葉に鼓動はさっきよりも速くなっている気がする。
「んあ?角名?どないしたん」
ひょっこりと現れたのは侑くん。
角名くんのうしろに立つ私には多分気づいていない。
「侑くんっあの子が角名くんにべったりで…っ」
急に指をさされて侑の視線がこちらに向く。
「あの子って…あ!角名ぁ!またちゃんとおるんか!そんな隠さんでもええやろ!角名のだけちゃうねんぞ!」
多分彼はまだ状況を把握していないんだと思う。でもそれが逆にすごく助かる。張り詰めていた空気が少し緩んだ気がした。