第14章 初恋の君と (角名倫太郎)
水道の水を止めた彼が私の抱えていた自分のジャージを手にして肩にふわりとかける。
「ほらジャージもちゃんと着て、ね?」
『あの…これもう…角名くんの着れない…っ』
「え、なんで?」
あれよあれよという間に袖を通されて、チャックまで閉めてくれた。でもこれはもう…着れないよ。せっかく閉めてくれたチャックに手をかけて脱衣しようとするとすぐにその手を掴まれた。
私の顔を覗き込むように角名くんが腰をかがめる。その表情が優しくて、でも少し怒ってるようにも見えて、堪えている涙が溢れそうになるのが分かる。
「こいつらになんか言われた?」
『……っ』
後ろに立つ彼女たちの空気がピリッと張り詰める。
「え〜私たち何も言ってないよねぇちゃん?仲良く話してただけじゃん電車で会ったぶりだねって。ねえ??」
ここでなにかを言い返せるほど私は強くなかった。角名くんに迷惑がかからないならもうなんでもいい。
「俺ちゃんに聞いてんだけど。あんたたちからは何も聞きたくない。」
「な、なんでそんな言い方…っ」
こんなに冷たく言い放つ彼を見るのはすごく久しぶりな気がする。見向きもしない彼は私の手を掴んだまま私の言葉を待っているように見えて正直に話さなきゃって思った。
『ぇと…ずっと借りてるのも悪いし…角名くんの彼女って周りに思われたら迷惑かけちゃうから…だから…』
角名くんは素敵な人だから。
私なんかが側にいたらチャンスを無駄にする。
角名くんは優しい人だから。
私はもう1人でも上手くやれるって伝えなきゃ。
「そんなの思わせとけばいいじゃん。それに着てって頼んでるの俺ね?ちゃんは着させられてるだけだから。なんにも心配しなくていいんだよ。」
でも彼から返ってきた言葉は予想のはるか上だった。思わせとけばいいなんて言うと思わなかった。
とくん、と脈打つ鼓動。
そんなこと言われたら…そばにいたいと思ってしまう。これからも近くで支えさせて欲しいと思ってしまう。こんなに優しくされたら…誰だって勘違いしそうになるよ…。