第14章 初恋の君と (角名倫太郎)
体育館の方から近づいてくる足音が1人分。
角名くんだ…。早く…拾わなきゃ。
恐怖からか、悔しさからか、目の前に散らばるものを早く拾わないといけないのに体が動かない。
止まった足音の主は散らかった床を見て一瞬で険しい表情になる。
「え、なに…これ」
『…っす、なく 「あ!角名ぁ♡」
床に投げ捨てられた自分たちのボトルと自分のジャージを見て唖然とする角名くんに声をかけたけれど私の小さな声は甘く高い声にかき消された。
「ちゃん大丈夫?」
『あ…えっとごめんねすぐ拾うから…っ』
「俺も手伝うよ」
1番初めに拾ったのは角名くんのジャージ。こんなの申し訳なさすぎる…でももう着れないな。迷惑かけるのだけは嫌だから…。
「ねぇ角名ぁ〜♡今日上で見てるね?」
ボトルを拾う角名くんの隣にちょこんとしゃがんで可愛らしい声で彼の名前を呼ぶ。
「スクイズ一応口元のところ洗おうか。俺自分たちのやるからちゃん北さんたちのお願いしていい?」
『あ…うん。あの、でも角名くん…にお話があるみたいで…っ』
「俺は無い。ほら部活始まるから急ご。」
水道にスクイズをおいて口元を2人で洗う。背に立つ彼女たちの視線が気なって余計なことばかり考えてしまうのに角名くんは何事もないように振る舞う。
いつもと話し方はほとんど変わらないはずなのに声が冷たい。怒ってる…みたい。
「ギンのやつって粉どんくらい?」
『あ、えっと銀島くんのは規定の量で大丈夫』
「おっけ。侑は?」
『侑くんは氷多めで粉も少し多め。』
「はあい。あ、俺のはもう入ってる。ありがと。」
ドリンク作りまで手伝ってくれる角名くんは自分のボトルの中身が入ってることを嬉しそうに目を細めて笑ってくれた。でもこんな状況角名くんに申し訳がなさすぎる。今度こそひとりで解決しないと。
『あ…私ひとりでやるから大丈夫…だよ?角名くん先に体育館いたほうが…っ』
「まだ誰も来てないから大丈夫。それに一緒にいたい。だめ?」
『だめとかじゃ…ないけど。』
だめじゃない。むしろすごくありがたい。
でも角名くんの迷惑にだけはなりたくないんだよ。
プレイに集中できる環境を作るのが私の仕事だもん。