第14章 初恋の君と (角名倫太郎)
手際よく片付けをする彼女の傍にただ突っ立ったままの俺は何も出来ずにただ眺めている。眺めてるっていうかこの光景を噛み締めてる…?
『片付けはしておくから角名くんはもう休んでて、ね?』
「や、でも全部やって貰ってるし…」
『そんなの気にしないでよ。あ…っ』
「ん?」
何かを思い出したようにバタバタとスクールバックを漁っている。
『プリント!合宿の!お母さんかお父さんのサイン必要だからって預かってて…これ渡しに来たのに忘れるところだった…』
「あー、そうだったね。何から何までまありがとう。」
『サインってお家にプリント郵送するの?』
「いつもは郵送してるけど週末親が様子見にこっち来るっぽいから今回はその時に、かな。」
『そっかあ、角名くんは1人で頑張っててすごいなぁ』
「全然だよ、ちゃんこそ越してきたばっかなのに北さんから信頼されてるしそっちのがすごいよ。」
『北さんてそんなに厳しい?』
「まあ…少なくとも俺達には、ね。」
常に見られてるみたいな緊張感。なにかやらかすたびバレてるんじゃないかって恐怖感。侑といると特に…あいつはすぐバレるから…。
『私今日の朝ね、電車でたまたま北さんに会って一緒に学校まで行ったんだけど』
「え?うん」
うそでしょ俺の役割取られてんじゃん。
いや、一旦聞こう。一旦。
『北さん皆のこと大好きなんだよ。皆のこと誰よりも見てるし期待もしてるから厳しいけど…でも愛情の裏返しだよきっと。』
朝、どんな会話をしたんだろう。
北さんの事だからきっと真面目な話だろうけど。
「そっか、なんかちゃんに言われるとそんな気がしてくるよ笑」
『私は皆のこと精一杯支えるから…春高連れてってね!』
「うん、一緒にいこうね」
『うん!あ、じゃあ私そろそろ行くね…体調悪いのに長居してごめんね。』
「いやいや、おもてなしもできずに何から何までごめんね。今度来る時は俺も手伝うからまた来て。」
『うん、また来るね』
パタン、と閉まった玄関の扉をしばらく眺めていた。もっと一緒にいたかったな。恋人ならもっと一緒にいられるのに。