第3章 初恋 (佐野万次郎)
昨日の夜にと真一郎がした話は知らないけど、真一郎の言うアレはつまりアレのことだろう。あんなに甘えた声を出していたのに何も覚えてないなんて言われたら俺でも発狂するわ。
『ごめん真ちゃん…記憶ない…!』
「えええ!うっそお…真ちゃんショック…」
『えっと…昨日した話もっかい教えて?』
「んーと、昨日おれワカと電話してたじゃん?そんときにさ、ワカが旅行行こーぜって言うからいいねーって話になって、も来るかな?って、そしたら考えるーって言ってたから結局どーすんのかなって思って」
『わー、全く覚えてないけど…いつ行くの?』
「えっとね、来月の終わりっつってたかな
箱根だって、どーする?」
『あー、来月の終わりかあ。
実はさっきさ、この前お会いしたスタイリストさんがね、学校卒業したら春からアシスタントとしてお願いしたいって連絡くれてね。来月の終わりに体験で何日か働きにおいでって言ってくれたの。だから旅行行けないやゴメン!』
「あー、そっかあ。それはそっち優先だな!
俺はワカたちと行ってくるけど頑張ってな!」
『わーん、ありがとう真ちゃん!』
てことは真一郎いねえけどは家にいるんだ。一瞬いけない考えが頭をよぎってハッとなる。
「んーで、その後のことも何も覚えてねえ?」
『そのあと…っていうか、リビングで眠たくなっちゃって万次郎くんが部屋に運んでくれたことしか覚えてない。真ちゃんが電話しに行ってそのあと真ちゃんに会った記憶ないよ私。』
わーキツ…。真一郎かわいそー。
あんな可愛い声出しといて忘れとんか。
酒って怖いな…。
「…泣きそう。マジか。」
『なにがあったの?』
「いや…言葉じゃ表せないからあとでな?♡」
『わかったよ、ごめんね真ちゃん』
「分かったって言ったからな!」
『?うん、あとでね?』
ニコニコそわそわしている真一郎を横目に何が何だかという表情の。俺ももう一度の甘えた声が聞きたい。でも次は真一郎じゃなくて俺の名前を呼んで欲しい。