第13章 お気に入り(松野千冬)
side you
目を覚ますと千冬くんの腕の中だった。
そうだ。私千冬くんと付き合ったんだ。
なんだか体がだるい。重い。
あんだけシたらそりゃそうか。
隣で眠る彼の寝顔はやっぱり可愛らしい。本人に言ったら「俺も男ですよ」って言われると思うけど。でも可愛いものは可愛い。
あの時咄嗟に口から出た「私も好き」は嘘じゃない。いつから千冬くんのことをそんな風に想ってたんだろう。
思えば出会った時から彼に惹かれていたのかもしれない。道端で血を流していた彼に。あの時の千冬くんはどこか寂しそうな目をしていたから…この子も独りなんだと思った。だから声をかけた。
ただ放っておけなかっただけ。
どこの学校かも分からない。名前も知らない。
それなのにもう一度会いたいと思った。
次に会った時は圭介の隣にいて。あの時あった彼とはまるで別人みたいに柔らかい雰囲気だったから人違いかと思ったんだっけ。だから私のハンカチを返してくれた時は覚えててくれたんだなって嬉しかった。
千冬くんに声をかけるたび、触れるたび、あぁこの子は私のことが好きなんだろうなって…。人からの好意には慣れてる。人に嫌われたことはあまりない。独りが嫌だから誰もが話しかけやすいような、その場が明るくなるような立ち振る舞いを自然と身につけていた。
最初はその好意を利用していただけなのかもしれない。春としたみたいにもう一度キスをしてみたくなったから千冬くんを誘った。彼なら断らないと思ったから。
キスも快楽も特別も…刷り込めば離れていかないんじゃないかって。なのに離れられなくなったのは私の方。知れば知るほど真っ白で、真っ直ぐで、そんな彼を私だけのものにしたくなった。好きなんかじゃ足りなくて愛されたくなった。
彼より私の方がきっとずっと拗らせてる。
だから千冬くん…離してあげないよ。