第13章 お気に入り(松野千冬)
side千冬
俺は多分また夢の中にいる。
これもまた現実ならいいのに。
八戒の家でさんと八戒の兄貴が親しそうに並んでいる所を見た時は心臓が止まったかと思った。やっぱり俺はただのお気に入りで、タッパも力もある男じゃねえとさんの隣には立てないんだと突きつけられた。
なのに今目の前にいる彼女は俺を好きだって言ってくれた。俺が1番聞きたかった言葉が1番聞きたかった声で好きって言ったんだ。
こんなの夢じゃないならなんなんだよ…
「さん俺の頬つねってください」
『そんなことしなくたって現実だよ?』
「いいからつねってください」
『うん……っえい。』
「った!!!んな強くやんなくてもいいでしょ!?」
ちぎれるほどに俺の頬をつねるもんだから思わずでけぇ声が出た。
『夢じゃないでしょ?』
「うん…幸せすぎて死にそう。」
『私も幸せだよ』
「…さん今日から俺の彼女っすね」
『じゃあ千冬くんは私の彼氏だ』
彼氏…やばい。心臓バクバクしてきた。
「さんやばい…」
『うん?』
「好きすぎて無理…俺すげぇ重いかも…」
『うん知ってる』
「明日の集会で場地さんに話してもいい?」
『いーよ』
「八戒には?」
『いいよ』
「マイキーくんにも?」
『ふふっいいよ、皆に言おうか』
「…っはい!」
少し照れくさいけど、この人は俺のだぞってちゃんと皆に言わないと。
「好きです。大好きさん」
『伝わってるよ』
「キスしていい?」
『うん、して?』
「…っ言い方ずるいっすよ」
俺の首に腕を絡ませていたずらに笑う彼女から目を離せない。少し染った頬に手を添えて唇を重ねる。彼女になったさんと初めてのキス。今までよりずっと甘くて熱くて蕩けそうだ。