第13章 お気に入り(松野千冬)
男女が部屋から出てきたら誰だって疑うだろう。それは千冬くんだって例外じゃない。
『お話してただけだよ』
「話…?なんの話…すか。」
ぐりぐりと額を押し付ける千冬くんの頭を撫でながら自室へと移動してソファに座らせる。
「さん…俺…っ俺のこともういらないの?」
『え?』
「だって俺はただの"お気に入り"っすよね。八戒の兄貴の方が強えし…背も高ぇし、そっちのが良くなったすか…?」
『待って千冬くん勘違いしてるよ。私は大寿くんと何もないし、千冬くんのこといらないなんて思ってない。』
「じゃあなんでずっと連絡くれないんすか…?嫌いになった?」
『それは…っ』
この1週間ずっと…ずっと考えてたのは千冬くんのこと。いらないなんてそんなはずない。君が熱の含んだ声で呼ぶ名前は私じゃなきゃ嫌だとせっかく気づいたのに。
『私は…っ恋も、愛も分からなくて…だから知りたかったの。大寿くんといたのは彼が私の相談相手だからだよ。それ以上のことは何もない。八戒くんのお兄さんだったのは驚いたけど…。』
「それは俺も知らなかったっす。でもあいつさんの腰…だ、抱き寄せてました…。」
『きっとからかっただけだと思う。深い意味はないよ。』
千冬くんの反応を楽しんでたみたいだし。
「じゃあ本当にあいつの事好きじゃない?」
『うん、そういう感情は彼にはないよ』
「そっか。勘違いして突っ走ってごめんなさい。だからもっかい言わせて…俺さんが好き。さんは…俺のことどう思ってますか?」
私を見つめる綺麗な翠に吸い込まれてしまいそうになる。トクトクと早くなる鼓動…初めての感覚にやっと全てが繋がった。
『私も…千冬くんのことが、好き…』
「…っほんとに?」
『うん。好きだよ千冬くん待たせてごめんね』
「ううん。ううん…いい…全然いいっす。これ夢じゃないすよね…?待って。くっそ嬉しい…!!!」
『私も嬉しい』
「ああもう大好きっす!!」
そう言って抱きしめる腕は力強くてまるで離さないと言われてるみたいだ。好きが通じ合うってこんなに幸せなんだ…心があったかい。