第13章 お気に入り(松野千冬)
「戻りました」
『おかえり千冬くん、お茶どーぞ』
「ありがとうございます」
デカめのコップになみなみと注がれた飲み物。一緒にいたい口実にお茶飲むっつったんだったわ。
俺は三途みたいに理由もなくこの家にあがることはないし、でもその代わりにさんの飲みきれない分のお茶を飲むくらいやすいもんだ。でも飲みきれないなら作らなきゃいいんじゃないか?
「なんでいつも飲みきれない量作るんすか?」
『んー、あそこにウォーターサーバーあるでしょ?定期便で届くから飲まないと溜まってちゃうんだよね。お父さんが契約してるから解約方法とか分かんないし。お茶作って味変してるんだけど女のひとり暮らしじゃなかなか減らなくてさぁ』
「なるほど。だから料理のときもあそこの水使うんすね」
『そうそう。前に溜めちゃったことあってね、そのときはお風呂の水に使ったりしたなあ笑』
「なんすかその贅沢な使い方」
『だーって減らないんだもん』
「俺が飲みに来るから残しておいて下さいよ」
『うん、これからは千冬くんに頼むよ』
理由なんてなんでもいい。
一緒にいられるならなんでもいい。
『はい、次入れますよー』
「あ、うすっ」
あっという間に3杯飲んでお腹はたぷたぷ。
『すごいね千冬くん』
「う…さんが入れるから…」
『苦しい?横になる?』
「うす…」
もたれていたソファに横たわると苦しさが少しだけやわらいだ。にしてもキツいな。
『お腹苦しい?』
「パンパンっす…」
『お陰様でお茶完売です!』
「そりゃ良かったっすわ」
『ありがとうね、よしよしいい子』
「んー、それ好き。」
わしゃわしゃと犬を撫でるように俺の頭を撫でるさんの手が好き。さんになら飼われてもいい。俺を飼ってよ。