第13章 お気に入り(松野千冬)
俺たちがラーメン屋に着く頃は数人並び始めていて、場地さんのケツから飛び降りたさんが『私先並んどく!』って駆け出してった。
「っお前!止まってから降りろ!!…ったくよぉ」
「聞こえてねえっすね多分…」
「千冬ぅ…ほんとにあれがいいのかよ」
「そー…っすねぇ」
「振り回されんぞぜってえ」
「さんになら本望すから…」
「そういうもんか?」
「そういうもんす」
さんにならむしろ振り回されたい。彼女の瞳に俺が映るのならどこへだって連れていくし、どんなわがままも笑って受け入れる。
『ねえ早くー!!』
「わーってる」
並んでいてくれた彼女は合流するなり場地さんを見つめる。
『さっきから思ってたんだけど圭介シャンプー変えた?』
「変えた」
『だよね、匂いがいつもと違う』
そう言って場地さんの髪に触れる彼女。ひと束掬って鼻先に近づけてから
『私この匂い好き』
なんて笑う。
場地さんにすらもやもやとした感情を抱いてしまう俺はおかしくなっちゃったのかな。
『千冬くんは前髪少し切ったね』
「すげ…分かるんすね」
『昨日は目にかかってたのに今日は綺麗な目が見えてるから。』
ほんの1.2センチ切っただけなのに、そんな小さなことにさえ気づいてくれるから俺はまた勘違いしそうになる。
「マイキーも髪切ったっつってたけど気づいてた?」
『いいえ』
「毛先傷んでるからってエマが切ったんだと」
『あんなの気づかないわよ』
「千冬のも気づかねえだろ」
『きっづくよー!隊長としてどーなの!?可愛い可愛い千冬くんのおめめが見えてるっていうのに!』
それを聞いてニヤニヤしだす場地さん。あんたのそんな顔見たことねえんすけど…なになに!?
「良かったな千冬ぅ」
泣きそう。
『千冬くんが今日も可愛くて世界は平和ね』
「お前の世界ちいせえな」
『小さくて結構ですぅ!私は皆がいればそれだけで幸せなの!』
そう笑って俺を抱きしめるさんは少し泣きそうな顔をしていた。
あぁ、この人を守りたい。
俺の全てをあげるからどうかそんな顔をしないで欲しい。