第13章 お気に入り(松野千冬)
「悪ぃ待たせた…って千冬もいんじゃん」
「ペケのエサ買った帰りにたまたまっす」
「三途の愛機みてぇな音がしたからいるかと思ったけど勘違いか?」
『あー、さっきまでいたよ。送ってくれたの』
「昨日あのまま泊まってったんか?」
『そうそう、ご飯食べたら帰るのめんどくさくなったって久々に泊まっていったよ。しっかり朝ごはんまで作らせて頂きました。』
泊まり…か。俺はしたことない。朝ごはんも一緒に食べたことは無い。
久々にってことは何度もあるんだろうな。幼馴染だから当たり前なのかもしんねえけど。俺だってさんともっと一緒にいたいと毎日思う。触れるたび、触れられるたび、離れたくないと思うのに俺は毎回自分の家へ帰る。
一緒に朝を迎える資格が俺には無いと思うから。
好きだと伝えて、そんで想いが…奇跡的に通じたならそのときは思う存分あなたに触れたい。一緒に朝を迎えて、俺の腕の中にはさんがいる。そんな日が来ればいいのに。
『千冬くん?』
「え、はい…っ」
『ぼーっとして考え事?』
「ぃえ…っと」
「あ、あー…千冬も来るだろ?」
「あ、は…はいっ!どこいくんすか?」
場地さんにはバレてんなこりゃ…。
俺がさんのことばっか考えてんのがバレてる。今のだって多分助け舟だ…まじ頭上がんねえっす…。
『私がラーメン食べたくなったから圭介誘っただけ!』
「…三途、とは行かないんすか?」
『春はねぇ…ちょーーーう潔癖だからそういうとこでご飯食べられないの!古びた雰囲気ある感じのとことか、人の手作りとかね。』
「へ、へえ…」
店の飯食えねえのにさんの手料理は食えるのな。まあさんち綺麗だし調理器具も清潔に管理されてたから食えるのかもしんねえけどさ。
彼女のことになるとなんでも敏感になっちまう。
「早く行かねえとあそこ混むぞー」
『そりゃまずい!行くぞー!』
「んじゃメットしろ」
『…』
「解散すっか?」
『被ります!』
「なんっでお前はすぐ被んねえんだよ…」
『窮屈でやなんだもーん…』
「千冬お前も早く単車もってこい」
「うす!」
駄々を捏ねつつも場地さんのケツに座って早くと急かす彼女はきっとラーメンのことしか頭にないんだろうな。