第13章 お気に入り(松野千冬)
side松野
さんは今何をしてるだろうか。
連絡…してみようかな。
あぁでも迷惑になるかな。
昨日会ったばかりなのにまたさんのことばかりを考えてる。ムーチョが送っていっちまったからあんまり話せなかったしな。
…あ、ペケのエサもうねえじゃん。
買いに行くか。
キャットフード片手に家に戻ると見覚えのある単車と…さん?
俺の気配を感じた単車の持ち主が何故か口元を隠して黙り込む。
『ちょっと!春みたいに寝ぼけてキスとかしないんですけど!?マスクなんてしちゃってひどい!』
「別にそこ警戒したんじゃねえし今あんま喋んな」
あいつ…ムーチョんとこの副隊長。たしか三途…。
ていうか今キスつった…よな。三途が寝ぼけてさんにキスしたのか…?心のどこかで分かっていたはずなのに自分だけじゃないのだと突きつけられてたまらなく苦しい。
でも俺には彼女を素通りすることなんてできなくて、2人の前で立ち止まった。
「さん…?」
『あれ、千冬くんだ!』
「場地さん待ちすか」
『うん!千冬くんも来る?』
「えっと…でも…」
俺三途のことあんま知らねえし気まずい…。場地さんとも仲良さげだったしアウェイすぎやしないか。
「俺帰るわ。場地のケツ乗ってもメットは絶対着けろな」
『…』
「着けろ」
あぁ、この人もさんのことをすごく大切に思ってるんだ。無口で、ニコニコとムーチョの隣に立ってるだけの忠犬だと思ってたけのになんか雰囲気ちげえな。
『着けます…。私のわがまま付き合ってくれてありがと春。気をつけて帰ってね。』
「はいよ」
口調に似合わず優しい眼差しで彼女に返事をして単車のエンジンをかけるとすぐに去っていってしまった。
「あいつと仲いんすか?」
『春はね、幼馴染だよ。創立メンバーじゃないけどね。』
「じゃあさんと場地さんとマイキーくんと三途は前から仲良かったんすね」
『そうだね。春はもうあんまり遊んでくれないけどね。』
「寂しい?」
『んー、いつでも会えるし別に平気かな。』
なんで三途といたのかとか、キスのこととか、聞きたいことはたくさんあるのに聞けないのは俺がただの“お気に入り”だから。