第13章 お気に入り(松野千冬)
『あ、はい…っ』
低く落ち着いた声に話しかけられてつい返事をしてしまった。
「神に祈りに来たのか」
『…思い出に、会いに来ました。』
「そうか。」
そう言って振り返った彼の瞳があまりにも綺麗な黄金色で思わず見とれてしまう。
「俺の顔になにかついてるか?」
『あ、すみません。目が綺麗だったから…』
「ふ…っ、怖くないのか?」
自嘲気味に笑う彼は寂しそうに見えた。
『こんなに綺麗なのに…怖くなんてないですよ。』
怖いというのは彼の顔?体格?低い声?どう頑張ったって弱そうには見えないけど、だからといって怖いとも思わない。それになぜか彼は愛を知っていると思った。なんでそう思ったのかなんて分からないけれど私の直感がそうだと言う。
「お前は過去に囚われてるのか?」
『過去に…?』
「思い出に会いに来たんだろう」
『そうですね。両親との数少ない思い出なので。』
「すまない、野暮なことを聞いた。」
『あ、いえ両親は元気なので大丈夫です。仕事が忙しいみたいでもう随分会ってませんけどね。連絡は…先月メールのやり取りをしたくらいかな。毎年帰ってきてくれていた誕生日にすら帰ってきてくれなくなりましたよ。』
ほんの数分前に会ったばかりの人になんでこんな話してるんだろう…。