第13章 お気に入り(松野千冬)
あれから2年、そんなことはたったの1度だってなかったのに。寝ぼけてたと言われてしまえばそれまでなんだけど。懐かしいな、なんて心が温まる私はどうかしてるのかな。
『春、朝だよ』
「ん、起きる」
『ご飯は?』
「食べる」
2人分の朝ごはんを作るのはいつぶりかな。
実際のところエマがたまに泊まりに来るからそんなに久しぶりでもないのだけれど、春と朝ごはんを一緒に食べるのは久しぶり。
『ねえ春』
「やだ」
テレビの画面を見たままこちらを見向きもせず嫌だと言い放つ春。
『まだ何も言ってない!』
「ろくな事言わねえからやだ」
『バイク乗せて!』
「まじでヤダ!お前そう言ってこの前朝まで走らせたろうが!」
『圭介と会うからそれまで!だめ?』
「…まあ、それなら…」
『やった!ありがとう!』
なんだかんだ言って我儘を聞いてくれるんだもん持つべきものは幼馴染!
―――
「ぜってぇにメットしろ」
『い!や!だ!』
「しねえなら乗せねえ」
『すっぐします!』
最初から素直に付けろ馬鹿が、と小さく悪態を着く彼の後ろに跨って準備は万端。
「んで、どこ行きてえの」
『教会!』
「教会?なんで」
『小さい頃お父さんとお母さんが何度か連れていってくれたの。春といたらなんだか昔のことを思い出しちゃって。』
「ふーん」
心底興味のなさそうな返事とともにエンジンをかけ車体は前進する。風にゆれる春の銀髪が柔らかそうでつい触れてみたくなるけど運転中に触んなって怒られそうだからやめとこーっと。
「到着。ここでいいの?」
『うんっ』
「俺ここで待ってるから気が済むまでどーぞ」
『うん、ありがとう』
私を1人で行かせるのはきっと春の気遣い。
大きな扉の向こうに広がる異世界のような空間。空気すらもガラリと変わる。父も母もキリシタンではなかったけど、このステンドグラスが好きだったみたい。初めて連れてきてもらった時に私もひと目でこの空間を好きになった。それから何度か連れてきてもらった。数少ない両親との思い出。
『あれ、誰かいる…』
1番前の席に座るとても大きな背中。
「突っ立ってないで座ったらどうだ」