第13章 お気に入り(松野千冬)
「俺そろそろ帰るわ」
『相変わらずやすはすぐ帰っちゃうんだね』
立ち上がって車のキーを片手に玄関へと歩き出す。
「ソウヤに呼ばれた」
『仲良しだこと』
「三途のことよろしくな」
『あいさ!』
「ちょっと隊長!お世話してんのはどっちかって言うと俺ですよ!」
『は!?』
「お前ら仲良くな」
『うん、やすは気をつけて行ってらっしゃい。ソウくんによろしくね。』
「おー」
パタンと閉じた扉に背を向けてリビングへ戻ろうとすると春に腕を掴まれた。
『何よ』
「お前!不用心だなほんとに!鍵閉めろよ!」
『エントランスオートロックだよ』
「住人と一緒に入ってくるかも知んねえだろ。女のひとり暮らしなんだからよ、鍵は閉めろ。んでチェーンもかけろ!」
『過保護!!!』
「お前になんかあるとマイキーも場地もうっせんだよ!口悪ぃし喧嘩早いくせに傷ひとつついたくらいでアイツらピーピー騒ぎやがって!」
『か弱い乙女に何言ってんの?』
「お前が何言ってんだよどこがか弱いか言ってみろ」
『春ってほんと口悪い!皆の前ではニコニコ何考えてるのか分からないやすの忠犬のくせになんで!?私にも優しくして!』
「してんだろ!だから鍵閉めろっつってんだよ!」
『言い方優しくー!!』
「はあ…あのな?お前になんかあったらマイキーたちが気が気じゃねえの。」
『春は心配してくれないの』
「俺だって心配くらいする。せっかくいい家住んでんだからセキュリティはフルに活用しろ。分かったな?」
『…あい。』
優しく言って欲しいとはお願いしたものの、実際に優しくされるとこっちの調子が狂う。
「今日泊まっていい?」
『久しぶりだね、いいよ』
「帰んのめんどくさくなった」
『お腹すいてる?パスタとかならだせるけど』
「食いたい」
『んじゃちょっと待ってて』
まるで自分の家みたいにソファに寝転がってチャンネルをかえる春は東卍にいるときと別人みたいに見える。ほんとに同一人物?いつもは付けてるマスクだって家に入るなり取ってたし。