第13章 お気に入り(松野千冬)
『あ、春おかえり』
「ん、これで合ってんの?」
『これこれ!わーい!ありがとう!』
「これ隊長のです」
「さんきゅ」
差し出された袋の中にはアイスと別に私の好きなお菓子とか、サラダとか、飲み物まで入ってる。
『これもくれるの?』
「また行かされるのが嫌なだけだから勘違いすんな」
『んもー!だーいすき!』
そっぽを向いてる春に飛びつくと心底嫌そうな顔をしながらも受け止めてくれるし、跳ね返したりもしない。
「早く冷凍庫入れねえと溶けんぞ」
『あい。やすも行こ!』
春の背中に乗ってエントランスをくぐり、部屋まで連れてきてもらった。
「今食うの?」
『キャラメルの方食べたい』
「それ以外閉まっていーんだな?」
『うん、ありがとーっ』
リビングに入るなり冷蔵庫に買ってきたものを閉まってくれる春。そのあとすぐ手を洗いに行ったと思えばシャワーの音が聞こえてくる。
『春お風呂行った?』
「外でてたから服とか髪とか気持ち悪ぃんだろ。」
『相変わらずの潔癖だね。』
「愛機すら除菌シートで拭いてっからな」
『怖い』
暫くしてドライヤーの音が聞こえてくる
「やっぱアイツお前に弱いよ」
『そう?なんで?』
「潔癖だから人に触られんのも嫌がるしよ、ましてや愛機に誰かを乗せるなんて聞いたことねえ。それにお前の好きなもんたくさん買ってきて、冷蔵庫にまで閉まって、勝手に風呂借りて…お前に心許してんだなって思う。俺の知らない三途ばかりだ。」
たしかに春はあんまり人と関わろうとしない。幼馴染の万次郎や圭介とすらあまり話してるところを見ない。でもやすには懐いて見えるし、隊長として慕っていると思う。
『それを言うならやすのことだって春は大好きだと思うよ。忠犬というかなんというか。やすの右腕って感じするもん。』
「まあアイツの兄貴分みたいな存在になれたらとは思ってる。アイツの居場所をつくってやれたらなって。」
『やすは優しいね』
「んなことねえよ」
『あ、春帰ってきた。』
ペチペチと化粧水まで塗って…私のな!?
「風呂借りた。ついでにスウェットも。」
『ちょっとそれ新品なんだけど』
「だからこれにしたんだろ」
『まーいいけどさ』
よく見つけてきたなと思いつつ、仲良く3人ソファに並んでテレビを見ながらアイスを食べた。