第13章 お気に入り(松野千冬)
『春アイス』
「は?」
『3個ね』
「は??」
『ちなみに私が2個であと1個はやすの。私チョコのヤツと最近でたキャラメルのやつね。』
マンションの駐車スペースに車を止めてすぐ春に話しかける。
「ここ来るまでにコンビニあったろ!?なんっでそんとき言わねえんだよ!」
『通り過ぎたあとに食べたくなったの』
「ぜってえ行かねえからな」
『あーー!いいトリートメントお母さんから送られてきたのになあ。前に春が絶賛してたやつ〜。あげようと思ったけど場地にあげよっかなぁ』
「っクソ!」
『よろ〜』
私が生まれるまではモデルをしていた父と母。今は2人とも海外を拠点にプロデュース業?あんま知らないけどそういう仕事をしてるらしい。トリートメントも母がイメージモデルをしていたところのものらしい。だからそういう類の物が定期的に送られてくる。愛されてないわけじゃないけど、全然帰ってこないし連絡もたまにしかとらない。今どこで何をしてるかなんて検討もつかない。
どうでもいい。
私には…仲間がいる。
「三途はお前に弱いな」
『そんなことないでしょ。トリートメントに釣られただけよ。』
「そんなんで三途は行かねえだろ」
『いやいや本当お高いやつだから。2カートン買えるよ。』
「そりゃ高ぇな」
『でしょ』
やすと2人きりなんていつぶりだろう。必要以上に会話を求めてこないし…落ち着く。
「お前なんかあったか」
『え?なんでよ』
「俺に構うなんて珍しいだろ」
『やだなあ、私やすのこと結構好きだよ?』
「千冬か?」
『千冬…くんがどうしたの?』
彼の名前を出されて心臓がトクトクと早まるのが分かる。
「最近一緒にいることが多いから、なんかあったなら千冬か場地かと思っただけだ」
『圭介とは今更なんかあったところで気にしないよ』
「じゃあ千冬なんだな」
『いやあ…特になぁんもないけど。ただちょっと…ピュアビームに当たりすぎたかなぁ。』
「俺が汚れてるみたいな言い方だな」
『そんなこと言ってないでしょーが。やすは必要以上に会話とかないしさ、心がラクなんだよ』
「まあ、いいけどよ」
彼の素直さに当たりすぎた。いちいち反応が可愛い。一生懸命に応える姿が可愛い。私の“お気に入り”。