第13章 お気に入り(松野千冬)
side you
不規則に揺れる身体に目を覚ますと見慣れた車の中にいた。いつの間に寝てたんだ…。
「起きたか?」
『んー…ごめん寝てたあ』
「どっか寄りたいとこは?」
『とくに…春は?』
「三途なら車の後ろ走ってる」
くるりと後ろを振り向けば春の愛機がすぐ後ろに着いていた。ヒラヒラ手を振るとすっごく嫌な顔をされた…なんで?
『春がすごく嫌そうな顔してる』
「お前が起きたからだろ」
『理不尽すぎない?』
「この前寝起きに三途捕まえたろ」
『あー、うん。武蔵神社で万次郎とけんの膝枕で寝てたら幹部会終わってた日ね。』
幹部会っていっても話すことなんてとくになくて、でも定例だからとりあえず集まった日があった。あの日は眠かったな。起きたらちょうど春と目が合って、その後ろにみえたニンジャに乗りたくなったんだよね。
「あの日朝まで走らせたんだろ?」
『うん、気持ちよかったよ。海辺いったりしてさ。』
「お前の寝起き我儘に何度振り回されりゃいいんだって三途が言ってた。」
『失礼だな。あとでアイス買ってきてもらお。』
「くく…っそういうところだろ笑」
『あ、笑った』
「俺だって笑うだろ」
『うん知ってる。いつもあんま笑わないからさ。私やすの笑った顔好きだよ』
「そーかよ」
顔怖いからな、やすは。身長もガタイもある。それに伍番隊ってだけで多分他の隊の子達から怖がられてるし。
寝てる私を起こさずに車で送ってくれたり、こうやって談笑したり、言えば好きなところに連れて行ってくれたり。雨の日に学校まで迎えに来てくれたことだってある。本当は優しくて頼りがいのある兄貴分みたいな人。
もう一度後ろを振り返ると今度は中指を立てられた。
『アイス2個だな』
「俺も頼も」
『いけいけー!やれやれーっ!』
はん!隊長命令だぞ春!残念だったな!!
哀れみの表情で春を見つめて前に向き直るとやすはまた笑ってた。普段からたくさん笑顔を見せてくれればいいのにもったいない。