第13章 お気に入り(松野千冬)
会が終わってもムーチョの背に乗ったままの彼女がやけに大人しい。
「こいつ寝てねえ?」
「寝てる」
覗き込む三ツ谷くんに淡々と答えるムーチョ。途中からずっと寝息が聞こえてたから察してたらしい。
「起こすか?」
「いや、車で送っていくからいい」
「んじゃ頼むわ」
「おー」
慣れた手つきで彼女を後部座席に寝かせて車のエンジンをかける。さんは俺が出会うずっと前から皆に大切にされてきたんだろうな。文句を言ってたって彼女を見るムーチョの目は優しいし、なんだかんだ三ツ谷くんだって心配してる。
車に近づいたマイキーくんが後部座席のドアを開けて彼女の頭をそっと撫でた。
「まったな〜」
明るくそれだけ告げて自分のバブに跨った。マイキーくんに続くみてえにドラケンくんも三ツ谷くんもパーちんもスマイリーくんも彼女の寝顔を優しく見つめて頭を撫でてから自身の単車へとむかう。
こんなにも愛されてるんだ。
ぽっと出の俺なんかが振り向かせられる相手じゃない。
「俺らも帰んぞ」
「あ、うす。場地さんはさんに挨拶しなくていんすか?」
「挨拶ったってあいつ寝てんじゃん」
「あ、や、でも皆…」
車に視線を向けて場地さんは言った。
「なんだかんだで俺らの可愛い妹みてえなもんだからな。あいつウロチョロしてっからさ、俺らが見ててやんねえとって皆思ってんだよ。」
「そうなんすね」
東卍の紅一点は幹部たちの妹、か。
「じゃあなー!ー!!」
でっっけえ声!さん起きちまうよ!?
「馬鹿かクソロン毛が起きるだろ」
飛んできて場地さんの肩にグーパンをお見舞いしたのはムーチョんとこの副隊長。至近距離で見ても女みてえなやつだな。てか口悪。
「ってえな!!お前もロン毛だろ!」
「起きたらめんどくせえんだよ!」
「知らっねえよ!」
「は?知ってんだろ!アイス食いたいだのお菓子食いたいだのうるせんだよアイツ!寝起きの我儘のせいでこの前朝までケツ乗っけてたんだからな!」
「そりゃご苦労だったなァ」
「家に押し込むまでぜってぇ起こすんじゃねえ!」
あれ、場地さんてこの人と仲良かったんだ。知らねえことばっかだわ。さんのこともよく知ってるみてぇだし。