第13章 お気に入り(松野千冬)
寝ても覚めても考えるのはさんに触れてもらった記憶ばかり。
俺の後ろに彼女を乗せて場地さんと3人で流したり、場地さんちで夕飯ごちそうになったり、この前はさんの家に行って3人で飯食ったりした。場地さんがめちゃくちゃ協力してくれてんのにイマイチ進展はねえ。
集会で俺を見つけると相変わらず抱きついてきたり頭を撫でたり手を繋いだりしてくるけど、そのたびに心臓がドクドクしてんのは俺だけ。
『けーん』
「あー?」
『おんぶ』
「あ?」
『お!ん!ぶ!』
「聞こえてるっつーの!だから あ?っつってんだよ!今何の時間か分かるか!?幹部会だよ!か!ん!ぶ!会!」
『けちくさ!』
「けちくさくて結構だっつーの」
俺にはこんなふうに甘えてくんねえ。そりゃドラケンくんの方がタッパもあるし頼れる副総長だけどよ…。
『いーし!他の人に頼むし!』
もしかして俺に…?なんて淡い期待はすぐに打ち砕かれる。
『やすーおんぶ!』
え、だれ。やすだれ。
「…は?」
『ありがとう』
「いいって言ってねえ」
『いいって顔してた』
「三ツ谷」
「無理、パス。」
三ツ谷くんに彼女を押し付けようとしているのはムーチョ。武藤泰宏で『やす』ね。いや、え。ムーチョとも仲良いのかよ。他の人と話してんのあんま見たことねえよ。特務隊こええよ。
「お前な、幹部会で俺が女おぶって部下に格好つかねえだろ。ふざけんなよ。」
『え、そんなこと気にしてんの』
「舐めてんのかテメェ」
『別に気にしないよねえ、春?』
「まあ今更」
『ほら』
「…もう好きにしてくれ」
『やっったあ!』
彼女が乗りやすいよう少し背を屈ませて彼女をおぶるムーチョとその光景に慣れてるのか微動だにしない三途。このオトコオンナみてえな奴話したことねーな。てかムーチョ相手にここまで意見できるさんてまじで何者。
『けんよりでっかい!わーい!』
「別にそんなかわんねえだろ。」
『いーや!2センチは変わる!』
楽しそうに笑顔を見せる彼女をよそに幹部会は進んでいく。ただ1人マイキーくんが羨ましそうに目を輝かせてるけど。
「ケンちん俺も!」
「しねえよ馬鹿か!」
「ケチ!」
「ケチで結構だ!」
勝ち誇ったようにマイキーくんを見下ろす彼女は女王様みてえだ。