第13章 お気に入り(松野千冬)

頭を撫でられて口ごもる俺を見て

「なになにもうすっかり飼われてんの？やるね〜」

場地さんのお母さんがニヤニヤと俺を見る。

『千冬くん可愛くって〜』

「まあ、圭介可愛くは無いからなぁ。は可愛い系が好きだったか残念だ〜」

『ねえ私早く京子さんのご飯食べたい〜』

「んじゃお茶出しといて」

『はあい』

何度もこの家に来ているんだと会話で分かる。昔からの仲だと空気感で分かる。そのたびにドクン、と心臓が脈を打つ。場地さんはさんを好きじゃないのだから気にする事はないのに。でもさんは？場地さんのことが好きかもしれない。彼女の気持ちは分からない。ましてや俺のことが好きなんてのは絶対にないんだから。

「はい、お待たせ」

『え、餃子！！？』

「好きでしょ？久々に作ってみちゃった」

『も〜京子さん大好き！京子さんの作る餃子が1番美味しいんだよ！』

嬉しそうに俺に教えてくれる彼女は本当に無邪気で。これは紛れもなく素なんだろうな。

「さぁ」

『んー？』

「ほんといつでも来ていいんだからね」

『うん分かってる。ありがとう京子さん』

「うちの子になったっていいんだよ」

『あれ、私の中ではもう京子さんの娘だったんだけど違ったの〜？』

「ははっ、違くないよ。ほんと可愛いやつだなあ」

心配そうに、だけど愛おしそうにさんを見つめる場地さんのお母さんの目は自分の娘を見るみたいに優しかった。場地さんが彼女を妹みたいだと言っていたあの顔によく似ている。

『やっぱり京子さんの餃子宇宙一だああ』

「焼いてないのまだあるから持って帰って冷凍したら？」

『いいの！？そうする！』

「千冬もいっぱい食べな」

「あざす！めっちゃ美味いっす！」

「良かった良かった」

帰り際、餃子を受け取ってルンルンなさん。

「気をつけて帰るんだよ。圭介に送ってもらいな」

「あ、俺送ります！」

「そ？んじゃ千冬よろしくね。またね。いつでもおいで」

『うん！餃子ありがとうね！また来る！圭介もまたね〜っ』

「ん、じゃあな。千冬よろしく頼むわ」

「うっす！」

グッと親指を立てた場地さんに見送られて俺たちは団地をあとにした。