第13章 お気に入り(松野千冬)
『万次郎〜今日千冬くんに乗せてもらう!』
「最近まじで千冬と仲いいじゃん、おっけー!んじゃ、またな!千冬よろしく〜」
「うす!お疲れ様っす!」
単車に乗り慣れてる彼女が俺の腰に腕をまわすなんてことはなくて、想定内とはいえ小さな期待がひとつ崩れた。
「…つ、掴まんなくて大丈夫すか?」
『掴まってほしい?』
「…ぃや、はい…」
『いーよ』
「っえ?」
『いいよ、千冬くんに掴まるからちゃんと運転してね?』
「あ、はい…っ」
俺の背中にピッタリとくっついた華奢な体。腰には腕が回されている。
時折からかうように太ももに触れたり、回した腕にきゅっと力を入れたりして後ろで楽しそうにしている彼女。俺はというとドキドキして全然それどころじゃない。
バクバクの心臓と共にやっとのことでたどり着いたさんの家。あっさりと腕を解いて単車から降りてしまう彼女に少しばかり寂しさを覚える。
『ありがとね千冬くん』
「はい…っ」
あぁ、まだ一緒にいたいな。好きだな。
『どうしたの?』
「あ、や…なんでもないっす。」
『寄ってけば?』
「ぇ、?」
『ご飯一人で食べるの寂しいし。千冬くんが良ければ一緒に食べない?』
「それってさんの手作り?」
『大したもん作れないけどね』
「食べたいっす!」
『よし、じゃーあっちにXJ置いてきて』
「うす!」
来賓スペースに単車を置かせてもらい、まだ一緒に居られる嬉しさに心を躍らせた。
『冷蔵庫何入ってたっけなぁ』
「俺なんでも食えるっす!」
『んー、ハンバーグとかどう?』
「え、大好きです!」
『じゃハンバーグにしよ。ていうかずっと特服なの変だよね。なんならお風呂使っていいよ、着替え出しとくから。』
なんて言ってくれるからちゃっかりお風呂まで借りて、用意してくれたスウェットまで着て、すっかりリラックスモード。