第13章 お気に入り(松野千冬)
初めてキスをしたあの日から、俺の頭の中はさんでいっぱいで。だけど意識してるのはきっと俺だけで。彼女はいつもと変わらず集会に参加していた。
「千冬ぅお前最近ぼーっとしすぎじゃねえ?」
「さ、さーせんっ」
「体調わりぃの?」
「いや、絶好調っす…!」
「んならいいけどよ」
場地さんを心配させてしまった…。初キスが忘れられなくて何回も思い出してるせいでぼーっとしてるなんて口が裂けても言えねえ…!!
『千冬くーん!』
「は、はいっ」
「返事でかすぎかよ笑」
『千冬くんは今日も可愛いなぁ〜っ』
走ってきた勢いのまま俺に抱きついて頭を撫で回すさん。
「またお前は千冬捕まえて…」
『圭介こそいっつも千冬くんといるじゃん!』
「俺は!学校一緒で同じ隊なんだよ!お前は何もかも違ぇだろうがよ!」
『違ったら千冬くんに触れちゃいけないって言うの!?千冬くんは皆の千冬くんでしょうが!』
「別に俺のだなんて言ってねえだろ!」
『三ツ谷も八戒くんの保護者かってくらいべったりだし〜』
「んだよ、聞こえてんぞ」
そんな会話中もなお俺を抱きしめたままのさん。トクトクと早まる鼓動が彼女に伝わってしまうのでは無いかと気が気ではない。
「タカちゃん!俺ちゃんとならもう普通に話せるから平気だよ!」
「まじ?すげえな…」
「だって今度俺ん家で映画鑑賞会するし!」
『楽しみだね〜』
「うんっ」
別にさんの彼氏になったわけじゃない。なのにこんなに苦しいのは…俺のつまらない嫉妬のせい。あの時好きだと言えてたらなにか違ってたのかなって少なからず考えてしまう
俺のファーストキスは
甘くて…
苦しかった。