第13章 お気に入り(松野千冬)
『今からウチ来ない?』
「え?家?いいんすか」
思いついたかのようにそう言った彼女。家…家って…あぁ変な気起こさないようにしねぇと。
『私が誘ってるんだからいいに決まってるでしょ』
「行き…たいです。」
『よーし、行こっ!』
さんのあとを着いてたどり着いたのはでっけぇタワマン。
「え、こ…ここっすか?」
『んー?そだよ?』
慣れた手つきでエントランスの鍵を開け、エレベーターに乗り込み、ついたのは最上階の角部屋。
「…ひっろ。」
通されたリビングルームは渋谷どころか都会を一望できるパノラマビュー。なにこれ。
「あ、あの親って…」
『いないよ』
「え?あ…ごめなさ、い変なこと聞いて。」
『あ、ごめん言い方間違えたね。日本にはいない。お父さんもお母さんも海外。今は多分2人で一緒にいると思うよ。』
いると思うよって…そんなに関心ねえのかな。
「すげぇ。なんか別世界っすね。」
『いきなり連れてきてごめんね。ほら、この家1人じゃ広くてさ…。』
「確かに1人じゃ広すぎるっすね。」
『寂しいって言ったらさ…ここに居てくれる?それともやっぱり引く?』
不安げに言葉を紡ぐさん。なんで引くと思われてんだろ。こんなん寂しいに決まってんじゃん。それに好きな人からここに居て、なんて頼られて嬉しくない男はいない。
「引くわけないじゃないすか。ここにいますよ。」
『ほんと?』
「だって俺の前ではもう1人のさんでいてくれるんでしょ?」
『そんなん言ってくれたの万次郎たち以外に千冬くんが初めてだよ。』
その言葉に少し胸が締め付けられる。俺だけが特別なんじゃないかって淡い期待が消えた瞬間だった。そうだよな、この人にはマイキーくんたちがいる。東卍創設メンバーだもんな。俺なんかじゃ分かんないような絆できっと結ばれてる。
「…マイキーくんたちはここへは来ないんですか?」
『うーん。あんまり来ないかな。たまにエマが遊びに来るくらい。』
「じゃあなんで俺を…」
『んー、私のお気に入りだから、かな』
お気に入り…彼女は笑ってそう言った。
それってどういう意味ですか、とはなんとなく聞けなくて俺はただそれを受け入れた。悪い意味ではなさそうだったから。それならむしろ嬉しかった。