第13章 お気に入り(松野千冬)
それから彼女は集会に顔を出すようになった。理由は集会の曜日を1日ズラしたから。
ホントにそれだけの理由で今まで来ていなかったのだと思うとまじですげえ人だな。
『ちーふゆくんっ考え事?』
「あ、いや…っあ、そうだ」
『ん?』
「これ…覚えてないかもっすけど」
ハンカチを差し出すと彼女は目を丸くした。
『…ずっと持ってたの?それに貸した時より綺麗になってるし。』
「覚えて…たんすか?」
『そりゃね。ボロボロで血出して座り込んでる人ってあんまいなくない?』
「じゃあなんであの時…」
『会ったことあるっけって聞いた事?あれはただ単に髪型とか目付きとか違ったからさ、人違いだと恥ずかしいじゃん!』
「あぁなるほど…。」
『別に返さなくても良かったのに』
でもありがとう、と言ってハンカチをポケットにしまってそれから俺をじっと見つめる。
「え、顔になんか付いてるっすか…?」
『ううん、綺麗な顔だなーと思って』
「え、?」
『千冬くんはさ、出会った時と今の私どっちが好き?』
「あ、、えっと…」
唐突に聞かれて言葉につまる。
だって俺はどっちも好きだし。
『雰囲気違くてびっくりしたでしょ。まさか東卍の子だと思ってなかったからさ。でもどっちも本当の私だよ、安心して。』
「お、俺は…どっちも好き、っす。」
『そう?じゃあ千冬くんと2人きりのときはたまにあっちの私でもいい?』
「もちろんすよ」
2人きりのときは。その言葉が何度も頭の中で反芻されてくすぐったい感覚になる。少しでも近づけたみたいで嬉しい。
「あー!いた!!」
『万次郎の声だ。行こっか』
俺の手をひいて石段を上がる彼女。マイキーくんや皆がいてもまだ繋がれたままの手。
「まぁた千冬捕まえて…なにしてんだよ」
『やだな圭介く〜んっ千冬くんとられてスネてるんですか??』
「ちっげーよ!千冬困らせんなっつってんだよ!」
『困ってないよねえ千冬くん?』
「あ、うすっ」
『ほらぁ!私たち仲良しだもん!』
やれやれと頭を抱える場地さんとは反対に、繋いだ手をブンブンと振る彼女。
どっちも本当のさん…か。