第13章 お気に入り(松野千冬)
集会終了後、話題はさんのことで持ち切りだった。
ただ総長の隣でニコニコと座っていただけ。何も言葉を発さず何を考えているのかも分からなかった。
ただ、幻の紅一点がそこにいるという事実だけ。黙っているとクールビューティを体現したみたいな人。
あの日会った彼女と今ここにいる彼女が別人のように感じて不思議な感覚になる。また会えたら…なんて願いはこんな形で叶ったし、同じチームならこれからも会えそうだ。
『ねえ私なんで呼ばれたの?』
「ん?会いたかったから!」
集会後の幹部だけが残る神社に彼女の不満げな声が響く。
『ちょっと!そんなんで呼ばないでよね!見たいテレビあったのに!万次郎のばかあ!急に呼び出すから録画するの忘れてきた!』
「ってえ!叩くことねえだろ!エマに録画頼んできてやったから俺ん家でみれば?」
『…許す』
ぜんっぜんクールじゃねえ。
あの日見た彼女はやっぱ別人だったのか?
『あれ、キミどっかで会ったことある?』
石段に座ったままの彼女が立っている俺の手を掴んで下から覗き込む。
「え、あ…えっと」
「さっきコンビニですれ違ったろ」
『あぁ、圭介と一緒にいたのキミか!お名前なんてゆーの?』
「ま、松野っす。」
『松野くんね。下の名前は?』
「松野千冬っす」
『千冬くん。可愛い名前だね』
「か、かわ、かわぃ…え??」
『私は。好きに呼んでね。年は圭介たちと同じだよ。まあ学年は圭介が1つ下だけど〜笑』
「ってめえ!余計なこと言うんじゃねえ!」
『事実じゃーん!』
こんなにも無邪気な人だったんだな。あの時はクールで冷めた人だと思ってたのに。友達といるからだろうか。
そして依然手は繋がれたまま。