第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
『もしもし…』
《あ、もしもしさん。突然すみません。》
『ううん、どうしたの?』
《声聞きたくなって…すみません》
面白くねえな。理由もなく電話をかけられるのは彼氏の特権ってやつだろ。俺にはもうその権利が無い。
『そっか。えと、今部活終わり?』
《はい、木兎さんたちとラーメン食べに行くんですけど。到着するまで繋いでていいですか。》
『大丈夫だけど木兎くんたちは?』
《いますよ。でも前の方にいるんで》
赤葦くんの大好きなさんは今俺の部屋で俺と2人きりですよ。背中のチャックも半分くらい降ろされちゃってさ。なのに赤葦と電話なんかして…ほんと面白くない。
ちょっと意地悪してやろうかな。
『あ、ほんとだ木兎くんの声聞こえ、…っ』
《さん?》
『ごめ…んね、なんでもない…っ』
華奢な肩にトン、と頭を預けると元々大きな目をまんまるくして俺を見る。甘えるように腰に腕を巻きつければピクリと身体が揺れる。
《さん今どこいるんですか?》
『今…お、お家ですっ』
これは…共犯ってやつですかね。
《そっか。もう外暗いから出ちゃダメですよ。先輩可愛いから心配です。》
『ありがと。赤葦くんも気をつけて帰るんだよ。』
《あー!あかーし電話!?だれだれ!??俺も話したい!ー!》
音割れするほどの声量で登場した木兎に思わず携帯を耳から離す彼女。赤葦が嫌な顔をしているのが目に浮かぶ。
『あ、木兎くん部活お疲れ様。みんな気をつけて帰るんだよ〜』
《おー!さんきゅーな!!》
《もう木兎さん…はあ、すみません騒がしくして。もう着くんで切りますね。電話付き合ってくれてありがとうございました。》
『ううん全然だよ。またね』
通話が終わってもなお腕をほどかずに彼女にぴたりと身体を寄せる。戸惑う彼女の瞳はうすらと濡れていて、そんな顔されたらさ…離したくなくなっちゃうでしょ。
『てつ…ろ?』
「赤葦に嘘ついちゃったね」
『…っ』
俺の部屋にいるって言ってくれた方が俺的には良かったんだけどな。まあ修羅場ってやつになりますけど。