第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
トクトクと早くなる鼓動。
の気持ちが誰に向いてるかなんて分かりきってるはずなのに、なんでか、聞かずにはいられなかった。
「俺と会うから…時間かけて準備したんですか?」
『えと…分かん、ない。』
「分かんないかあ」
『いつもと違う髪型に挑戦してみたんだけど…上手くいかなくて時間かかっちゃって…』
うーん、それってさ…
「それって俺のためだと思っていいの?…そんな可愛い髪してさ、かわいい服着てさ、メイクまでしてくれて。」
『て…てつろだってその服…私の好きなやつ。』
開いたままの漫画をパタンと閉じて頬を染めるから。俺はまた勘違いしそうになるんだよ。少しは意識してくれてんのかなって。
「うん、これはお前が褒めてくれたやつ。」
『…っ』
今度は耳まで染まった。
「前みたいに褒めてもらえるかなあって。どう?今の俺が着ても似合ってます?」
『ぇあ、うん。すごく似合ってるよ。』
「ふは、うん。俺も今日のすっげえ可愛いと思うよ。髪巻いてんのなんて初めて見た。」
『ん…あの。私、かえろ…うかな。』
「もう帰んの?ゆっくりしてきなって姉貴も言ってたじゃん」
『でも…お姉さん出かけちゃったし…』
「そんなに警戒されると傷つくんですけど」
警戒してんのは正解。大正解。
男の部屋に2人きりってさ、期待するでしょ。
「このワンピースすっげえ似合ってる。」
『え?あ、ありがとう…?』
さっきも聞いたよ、と不思議そうにきょとんとする彼女。でもこの服ってさあ。
「男と部屋に2人きりでこの服ってまずくねえ?」
『なん、で…?』
彼女の背中に手を回してチャックを数センチ降ろしてみる。
『てつろ…っ待って、だめ…っ!』
慌てて俺の腕をきゅっと掴むけど、それさえ俺にとっては可愛らしくて潤んだ瞳に吸い込まれそうになる。
「脱がしやすい服なんて男の部屋で着たらだめですよ」
prrrrr
「携帯鳴ってるよ」
『あ…赤葦く、んだ』
表示された名前に一瞬肩をピクリと揺らす。せっかく2人きりなのになんで邪魔するかね。
「出ていいよ」