第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
side you
ある日突然違う時代に飛ばされてしまうってどんな感覚だろう。恋人を1人置いて死んでしまうかもしれないという恐怖は計り知れない。シーンが進むごとに心がえぐられるような気持ちになる。
涙でくスクリーンがぼやけていく。
鉄朗から貸してもらったハンカチはぐしょぐしょ。
ハンカチで目元を擦るように涙を拭いていると不意に鉄朗の大きな手が私の頭を撫でた。それから目元を擦る私の手を握って膝の上へとおろす。
途端になんだか落ち着くような感覚になる。鉄朗の大きな手があったかくて、懐かしくて、この手が大好きだったな…なんて。
それでもやっぱり感動シーンには抗えずボロボロと涙が溢れる。でももう目は擦らなかった。きっと鉄朗は私が目を擦るから頭を撫でたんだと思う。そうすると私が落ち着くのを彼は知ってるから。
――――――
『ねえ、お姉さんまだこれ好き?』
手に取ったのはお姉さんが好きなプリン。
「うん好きだよ。てか、気遣わなくていいよ」
『久しぶりにお邪魔するのに手ぶらじゃ…』
「が来てくれるだけで姉貴は喜ぶけど」
『うーん…でもこれは買っていく!私も食べたいし。お母さんたちも食べるかな?』
「いや、お袋と親父でかけてっからいないよ」
『そっか。じゃあ3人分だね』
「え、俺の分も?」
『3人で食べた方が美味しいでしょ?』
「んじゃあお言葉に甘えて。さんきゅ」
飲み物と、お菓子と、それからプリンを買って鉄朗のお家へお邪魔することにした。久しぶりで緊張していたはずなのに、迎え出てきてくれたお姉さんの顔を見たらそんな緊張はどこかへ飛んで行った。
「ちゃん!久しぶりー!!」
『お姉さんお久しぶりです!』
「可愛さに磨きがかかってる…眩しいよお…」
私の姿を視界に捉えるなりぎゅうっと抱きしめてくれた。
『お姉さんは綺麗に磨きかかってます…』
「はあ、妹にしたい…アンタ早くちゃんにお茶出しなさいよ。なに突っ立ってんのよ」
「へいへい」
相変わらずのやり取りに心がほっこりする。
『あ、これお姉さんが好きなプリン。私も食べたくなって買ってきちゃいました。』
「ありがとー!私からも渡したい物があってさあ」
そう言って自室に歩いていくお姉さんのあとをついていく。