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今宵は誰の腕の中で眠りますか⋯?

第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)



それから数十分後、ズビズビと鼻をすする彼女の目からは大粒の涙が絶えずポロポロと零れていた。何度もハンカチで涙を拭き取っているけどそんなに擦ったら目が腫れちまうっての。


過去にとんだ青年は風神特攻隊の攻撃部隊に選ばれていた。それはすなわち死を意味する。国のために自爆承知で敵軍へと突っ込んでいく特攻隊。遠くない昔、日本ではそれが名誉なこととされていた。だが青年は絶望していなかった。世界で1番大切な人が現代にいるのだから、帰らなくてはならない。

もう現代には戻れないのだろうか。愛しい彼女は今何をしているだろうか。寂しい思いをしてないだろうか。自分ではない誰かが彼女のそばにいると思うだけで苦しくて仕方がない。もう一度この手で抱きしめたい。もし戻れたなら好きだと沢山伝えよう。これでもかというほど甘やかしてあげよう。両時代の青年が自分の生きるべき道へと帰ることを固く決意したシーン。

なんだか今の自分に重ねてしまう。の隣にいるのはいつだって俺がいい。俺が笑顔にしたい。幸せにしたい。もう一度彼女が俺を選んでくれるならもう二度と離してやれない。

『うぅ……っぐす、』

あーあー、またそんなに目擦って…

今の俺は彼女に触れる資格がないのかもしれない。それでも彼女の涙を止めるのは俺が良くて、自分の欲だけがどんどん大きくなる。

ぽん、と頭を撫でてから目元に当てられたハンカチを手を握っておろす。振りほどくこともなく大人しくなった彼女。

しばらくするとまた鼻をすする音が聞こえるけど、もう目を擦ってはいなかった。

決意も虚しく攻撃部隊として機体に乗り込んだ青年は、敵軍に自爆覚悟で突っ込むが突風に襲われその機体は海へと落ちていく。同じくして、彼女と夜の海へ遊びに来ていた青年は妙な胸騒ぎを感じ、彼女を1人浜に残して海へと入っていった。「必ず戻るから」と。シン、と静まり返った海を見て不安に駆られた彼女の元へ海の中から人影があらわれる。やっと帰ってきた彼はびしょ濡れでひどく疲れきっていた。

海に数分の間潜っていたとはいえそれだけなはずなのに。

答えは否。

この青年は彼女が愛するたった1人の彼なのだ。

2人の青年は海を通じて帰るべき居場所へと帰ることができた。
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