第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
映画が始まってものの数分。
隣から涙をこらえるよな小さな声が聞こえる。
いやいや早くねえか?
泣き顔すら可愛いけどさすがに早いな。
物語は第二次世界大戦中の日本と現代の日本の間で起こるタイムスリップもの。瓜二つの青年が時代を越えて入れ替わってしまうという話だった。
今は入れ替わってしまった、というところ。
序盤も序盤だ。
現代を生きる青年には大切な彼女がいて、離れ離れになってしまった彼女を想う愛と、戦争真っ只中の時代に飛ばされたという混乱の心情を描くシーン。
スンスンと鼻をすする。泣く程じゃねえだろうよ。彼女を思う青年の気持ちを考えると泣いてしまったのだろう。純な心を持つ彼女が可愛くもあり心配にもなる。
物語は中盤に差し掛かり現代に飛ばされてしまった戦時中の青年目線で話が進んでいく。ある日飛ばされた場所は自分の知る何もかもが無くなった街。建物は高いし街ゆく人々は髪の色が違う。目の色も…それに化粧が派手である。自分は異国へ飛ばされたのだろうか。はたまた捕らわれてしまったのか。最初は戸惑う。だが多少聞きなれないものもあれど言葉は通じる。数日後、何十年も未来の日本である事に気づいた上に自分には可愛らしい彼女までいたらしい。争いはないし道は綺麗に補整されているし、食べ物は美味しい。いい国ではないか。自分たちが守ろうとしている国はこんなにも栄えるのか。
いつまで経ってもこの彼女は俺を自身の彼氏と思い込んでるらしい。最初は人違いかともおもったが、考えをめぐらせていくうちに1つの可能性が浮び上がる。もし、自分の代わりに過去に飛ばされた人がいるのだとすれば。それはきっと姿かたちが自分とそっくりなのではないか。
ここでの暮らしは豊かで心地がいい。
でもこんな環境で育ってきた人間があんな時代を生き抜けるはずがない。自分は戻らなければならない。この国を守るため、この明るい未来を守るため。
名前も知らぬそっくりな青年に必ず戻ると心の中で誓う決意のシーン。またもや隣に座る彼女は涙を流していた。黙ってハンカチを渡すと温かい指先が触れて『ありがとう』と小さく呟いた。
ここでこんなに泣いていてはこの先のシーンは目から滝だな。
作品を彩る音楽は壮大かつ美しい。シーンにあっているし、何より心に響く何かがある。こりゃこの監督の作品にハマるのも頷けますな。