第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
side黒尾
がこういうのを気にするってのは前々から分かってはいたんだけど。この映画も実は。
の家から出ようとしたときのこと。
―――
「あ、テツくんちょっと待って!」
俺を呼び止めたのはの兄貴。彼女には先に靴を履いていて欲しいと伝えてお兄さんの方へと戻った。
「あのさテツくんこれ」
手渡されたものは映画のチケットに見える。
「チケットすか?」
「うん、が好きな映画監督の新しい映画がこの前から始まったんだけどさ。」
「あー、今人気ですよね」
この前夜久と見に行ってた映画と同じ監督のやつだっけ。
「そうそう、そのチケットでね。可愛い妹のために買ったは良いんだけど社会人と学生じゃなかなか休みが合わなくてですね…だからテツくんが一緒に行ってあげてよ」
「え、でもお兄さんも見たかったんじゃないんですか?」
「いや俺はが見たがってたからってだけで。それにテツくんとがヨリ戻してくれたら嬉しいしさ。良かったら2人で行っておいで。」
「それならありがたく…貰います」
「うん!あ、には俺からって言わないで絶対!テツくんからってことにして?」
「いやさすがに悪いっすよ」
デジャヴか…?
家で姉貴にも同じようなこと言われたな。
「ううん、テツくんからの方が妹も喜ぶだろうしそうしてほしい。」
「分かりました。ありがとうございます!」
「うん、じゃあ楽しんで!あ、それ引換券だから向こうで交換してね!」
「うす!」
それなら今回はお兄さんに甘えさせてもらおう。いつか上手くいったらその時に話せばいいか。
―――
姉貴との兄貴に甘やかされてるのは紛れもなく俺で。が申し訳なく思うことなんかひとつも無い。なんなら俺が申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
でも素直に喜んで欲しいと伝えれば、やっと俺の好きな笑顔を見せてくれた。
「足元暗いから気をつけてくださいね」
目的のスクリーンに入ると既に照明は消えていて、頼りはスクリーンの明かりと足元を照らす僅かな光だけ。
『うん分か…っわあ!』
「っと、セーフ」
『言われたそばから…ごめんね』
「いえいえ、怪我がなくてよかったです」
危うくポップコーンまみれになるとこだったな。