第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
side you
映画館までの道のり。小さなカバンと研磨くんへのプレゼントを持った鉄朗が隣を歩く。プレゼントは2つあったから1つずつ持っていたのに…。
それにご飯代を出させてしまった…。
お姉さんが出してくれたからって鉄朗は言うけどそれでも申し訳なさが消えるわけではない。
でも久しぶりにお姉さんに会いたいな。付き合っていた頃は鉄朗ではなくお姉さんに会いに家へ遊びに行ったこともあるくらい仲が良かった。服の趣味が似ていて、おさがりをくれたこともあったな。
鉄朗と雰囲気は似ているけど目つきは悪くない。すらっと長い手足に綺麗な黒髪。お姉さんというよりは姐さんと呼ぶ方がしっくりくる。そんな人。
『あ、ねえ映画ほんとにいいの?』
「いいのってなにが?」
『恋愛ものだから、その…鉄朗無理してない?』
「全然よ?こてこてのじゃないんだろ?感動系ってきいたけど」
『うん、あの監督の作品は王道恋愛ものってよりかは感動系かな。音楽とか世界観が綺麗で私はすごく好き。』
「へえ、楽しみかも」
『それなら良かった』
なんでも賛成してくれる鉄朗は付き合っていた頃から変わらない。きっと興味のないものでも嫌な顔ひとつせず付き合ってくれて、優しさの塊みたいな人。
『よし、じゃあポップコーンと飲み物買ってくるから鉄朗はここにいてね!』
「え、いいよ俺買ってくるから」
『さっき出してもらったからだめ!』
「いやだからあれは姉貴が『待ってて!』
不満そうな鉄朗を置いてお目当てのものを買って戻ったけど待っていてと言ったはずなのにそこに鉄朗はいなかった。御手洗かな?
「ごめんお待たせ」
『ううん、どこいってたの?』
「ん?チケットどーぞ」
『ありがとう。いくらだった?』
「いやいらんです」
『な、なんでよ…!』
「ポップコーン買ってくれたじゃん。飲み物まで」
だからそれはお昼ご飯を…もう…これじゃあ
『これじゃあ意味が無いのに…』
「気持ちだけで十分よ、ありがとう」
こんなに甘えてばかりでいいのだろうか。申し訳なさが募る。
「なんでそんな顔すんだよ、いいって、な?」
『うん。ありがと鉄朗』
「素直に喜んでほしいなあ」
『ん、ありがとう!!』
「どーいたしまして」
もうここは純粋に映画を楽しんじゃお。