第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
『待って鉄朗…っ』
「ん?」
『ほんとに悪いよ…ご飯いくらだった?』
「まじでいいって、な?」
『でも…』
申し訳なさそうに眉を下げる彼女に真実を言う他選択肢はない。
「あー…ほんとは言うなって言われてんだけど。と出かけるって言ったら姉貴がはりきっちゃってさ…小遣い貰ったの。だから全然大丈夫。」
『え、お姉さんから?』
「うん」
―――
「はいこれ」
「え、いいの?」
呼び止められたと思えば手渡されたのはお札。
「ばかね。好きな女にお金なんて払わせちゃいけないよ」
「うす。」
俺の姉貴は男気があるというかなんというか。姉御肌ってやつだろうか。顔は悪くねえのに可愛らしくのない口調がまじでもったいない。
「それと、私からなんて言わなくていいから。姉から貰ったお金ですなんてかっこ悪いこと私の弟なら言うんじゃないよ。」
「っす」
「よし、いってこい」
「さんきゅ、いってくる」
―――
『お姉さん元気?久しぶりに会いたいなぁ』
良かった。話が逸れた。
「映画終わったらうちくる?姉貴いるよ」
『ほんと!でも迷惑じゃないかな…?』
「んいや喜ぶと思いますよ」
もう一度うちに連れてこいと言ったのは紛れもなく姉貴だ。可愛い妹にまた会えるのなら跳ねて喜ぶだろう。
『じゃあ行こうかな?』
「ん、連絡しとくわ」
あくまで平静を装っていても心臓はバクバク。うちにが来る。付き合っていた頃は何度もあったこと。別れてからはただの1度もない。
姉貴にメールで知らせると返事はすぐに返ってきた。
「姉貴が楽しみに待ってるってさ」
《ちゃん来るの!?
楽しみに待ってるー!》
届いたメールの画面を見せると安堵した彼女がふわりと笑う。姉貴がいりゃあ俺の心臓もいくらか休まるってもんだ。
「んじゃあ映画いきますか」
『うんっ』