第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
俺がハンドクリームを受け取ると安心したように笑う。お前から貰うもんならなんだろうと俺は喜んで受け取る。
ハンドクリームだって普段はあまり使わねえけど乾燥が酷い時は姉貴のをたまにかりたりするんだ。だから全く使わないわけじゃねえし、同じものをも持っていると思うと嬉しくてたまらない。
『ねえね、なすのパスタ1口欲しい…な』
「もちろん、どーぞ」
スっと彼女の前にパスタを差し出すと彼女からもクリームパスタの皿が俺に差し出された。
「くっていーの?」
『一緒に食べようって言ったの鉄朗でしょ?』
「さんきゅ。…お、こっちもうまい」
『ナス美味しい…幸せー!』
「そりゃあ良かった。ナスも喜んでますね」
ほんとこいつは美味そうに食うな。
見てるこっちが幸せになる。
『鉄朗連れてきてくれてありがとっ』
「喜んでくれるならこんなのお易い御用ですよ」
お前の喜ぶ顔が見られるなら俺はどこにだって連れていってやる。
「甘いもんは?なんか食う?」
『あー、ううん!映画の時に何か甘いものたべようかな?』
「お、いいなそれ。俺もそうしよ」
『「キャラメルポップコーン」食べようかな』
『えっ』
「そう言うと思っただけ」
『鉄朗はすごいね、なんでもお見通しだっ』
そんな無邪気な笑顔で俺を見ないでくれ。お前が俺に笑顔を向ける度、名前を呼ばれる度、跳ねる心臓がお前を好きだと言って聞かない。
『もう出るよね?御手洗だけ済ませてくるね』
「あいよ」
席を立った彼女を確認して会計をすませる。好きな女に飯代なんて払わせるな、と姉貴が小遣いをくれた。
『おまたせしました』
「おかえり、荷物こんだけ?」
『あ、うん』
「よし、行くか」
小さなバッグと研磨のプレゼントを持った俺のあとを慌てる彼女がついてくる。
荷物をもたせてしまった!
あれ、お会計は?
彼女の考えていることは手に取るようにわかる。なんてったって全部表情に出てるから。なんとも可愛らしい。
『て、てつろ…っ荷物!とお会計…っ!』
ほら。
「荷物くらい持つし会計はもう済んでますよ」
『え、え!そんなの悪いよ!』
慌てて財布を出す彼女の手を制して店を出る。