第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
side you
うう…全然上手くいかない。
予定はお昼からだしといつもとは違うメイクに髪を巻いてみたりと挑戦してみてるけど、慣れないことはするもんじゃないな…。
「まだやってたの?十分可愛いじゃん」
『ここがもう少しふわってしたいの…』
「ふーん、女の子って大変ねえ」
洗面所を占拠しはじめて2時間。
たまに覗きに来る兄にもう十分だと言われたけどなんかもうちょっと…こことか…うーん違うなあ。
「デート?」
『えっ?』
「こんなに時間かけてっからデートかと思っただーけ。親父とゲームしてくるわあ。」
デート…デート?
いやでも私には赤葦くんが。
鉄朗はもうただの友達だし…あれ。じゃあどうしてこんなに時間かけて準備してるんだろ…。
考えても無駄か…うわ時間やばい…っ
1度は手を止めて考えてみたけどよく分からないし、今はとにかく準備しないと鉄朗が来ちゃう!
お昼を少し回った時計。鉄朗からの連絡はまだない。おかしいな…鉄朗が遅れてくるなんてあんまりないのに。でもおかげで準備は間に合った!
変じゃないよね?お母さんに見てもらお!
『急げっ急げっ!お母さん私の髪へんじゃな…っ』
「お邪魔してます」
えっ?
一瞬時が止まったみたいな感覚になる
リビングに入るとお父さんとお兄ちゃんの間に座ってテレビゲームをする鉄朗が目に入る。そういえば仲良かったっけ。今年社会人になった兄とは駅でたまに会ったりするみたいでそのたびに短い会話程度はするって言ってたな。お父さんも鉄朗のことをテツなんて呼んですごく可愛がってたし。
『え、ず…ずっといた!?』
「鉄朗くん30分くらい待ってるわよ。お父さんたちに捕まっちゃって可哀想に。」
30分…!!
全然間に合ってないじゃん私…。
「可哀想って!テツくん楽しかったよなあ!?」
「もちろんすよ」
『もう…ごめんね鉄朗…』
「いやいや、まじで普通に楽しんでたから平気よ」
『ほんとお待たせしました…髪が上手くいかなくて。』
付き合っていた頃と変わらず笑って許してくれる鉄朗に心臓がトクンと跳ねた気がした。
「んじゃ行こうか。」
『うんっ』
「お邪魔しました楽しかったです」
「あ、テツくんちょっと待って!」
先に靴履いててと兄に連れていかれた鉄朗。