第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
side you
「あれ、ちゃんのその練習着新しいやつ?」
『夜久くんおはよう。ううん借り物だよ』
「あ、やっぱ?なんか見覚えあんだよなあ」
どこで見たんだっけな、と私の横を通り過ぎてネットを組み立て始める夜久くん。
この練習着は紛れもなく赤葦くんのもの。
何も持たずにお泊まりをしてしまったから貸してもらったのだ。赤葦くんが着てたなんて思い出さないでね夜久くん…っ。
「おはよ」
『おはよう鉄朗』
「あー…それ赤葦の?」
『えっ』
「あいつが合宿の時着てたのと似てっからそうかと思っただけ。違った?」
『あ、いや、うん…赤葦くんの。』
「ふーん」
ば、ばれた…っ!恥ずかしい!
「お泊まりでもしたんですか?」
『う、ん。急だったからかりたの。』
「仲良いんですね」
それだけ言って私の横を通り過ぎる彼。
鉄朗笑ってなかった。
いつもの彼ならきっと笑って言うのに。
「黒尾となんかあった?」
ぼーっと考え込む私に声をかけてくれたのは海くん。
『なにも…ないんだけど。なんだか鉄朗と距離を感じるなあって思って。』
「黒尾はさ、思ったことわりと口にするタイプだと思うんだよね。口に出さなくとも態度とかさ。結構分かりやすいと思うんだよ。」
『…?私もそう思う』
「最近ちゃんと会話してる?」
『…して、ないかも。』
「今日は黒尾と一緒に帰ってみたら?」
『あ、でも帰りはいつも一緒で。』
「研磨とばっかり話してない?黒尾の目みてちゃんとさ、会話してみるといいよ。」
『そ…だね。ありがとう海くん。』
「大事なマネージャーが悩んでたら俺らはいつでも手を差し伸べるからね。」
『海くん…っ』
大きな手が私の頭をポン、と優しく撫でてみんなの輪へと入っていった。
ちゃんと会話…か。海くんの言う通り最近は研磨くんとばかり話していたかもしれない。鉄朗はどこか上の空な感じがしてあまり会話という会話をしていなかった。