第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
『あの、でもここお部屋だし…』
ここは赤葦くんのお部屋。外で繋ぐのもまだ恥ずかしいけど、お家の中で繋ぐのはあんまりイメージ湧かないなぁ。
「部屋の中だと繋がないんですか?」
『ぇと…デートの時とかに繋ぐものかなって…?』
「それなら今日だって立派なお家“デート”ですよ」
『そ、そうだね…っ』
「…だめですか?」
『いや、そんなことは…』
「良かった。」
ふわりと微笑んで私に手を伸ばす赤葦くん。その手をとって隣に腰をおろすとまじまじと私の手を見つめる。
「指細いですね。」
『そうかな?赤葦くんの手は綺麗ね。』
「一応セッターなので…指先まで気は遣ってますが。さんの手の方が綺麗です。」
『すごいなぁ…尊敬しちゃう。私なんて全然…。』
「それに小さくて可愛いです。」
『小さい?』
「はい。だってほら…俺の手で簡単に包込めます。」
『ほんとだね』
私の手を握ったままの赤葦くんが、その手をくいっと自身に引き寄せた。あっという間に彼の腕の中に収まった私を満足そうに見つめる。
「幸せです。」
『それは良かった…です?』
「今日泊まっていきませんか?」
『え、でも私何も持ってきてないよ』
「明日休日ですし部活だけですよね?パジャマも練習着も貸しますから。今日は離れたくないです。」
『分かったよ。お泊まりしていくね』
あとでお母さんにメールしておこう。
『あ、赤葦くんのお母さんたちは何時頃帰ってくるの?お泊まりするならご挨拶しないと。』
「今日は誰も帰ってきませんよ」
『そうなの?じゃあ挨拶はまた今度させてね。』
「俺の彼女ですって挨拶してくれるんですか?」
『えと、そのつもりだったよ』
「なんか…すっごい嬉しいです。」
抱きしめられたまま見上げると本当に嬉しそうな表情をしている赤葦くん。やっぱりすごく表情豊かな男の子だなあ、なんて考えてしまう。
「…俺の顔なんかついてます?」
『あ、ううん。ごめんね見すぎちゃったかも。よく笑う表情豊かな子だなって思ってました。』
「表情豊か…はあんまり言われたことないです。でもさんといると楽しいです。すごく。」
そう言ってまた微笑む彼に胸がきゅうっとなる。