第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
side you
近所にある公園が好きだった。
小さい頃によく遊んだ。
鉄朗と何度も寄り道をした。
夜風に当たりたくて、赤葦くんと通話をしながら夜道を散歩していたら吸い込まれるように公園へと足を踏み入れていた。ぼーっとベンチに座って足を投げ出している人影。通り過ぎようと近づくと紛れもなく鉄朗だった。
タイミング悪いな…なんて考えてしまうのはなぜだろう。赤葦くんと電話をしていなかったらどんな会話をしていたかな。
視界に映る鉄朗が少し悲しそうなのはどうして?
あれ?と声を出した私に何かあったのかと心配をしてくれる赤葦くん。鉄朗がいるって素直に言えばいいのに、私の口から出たのは何でもない、だった。やましい事なんて何も無いのに。
「俺がいるってバレたくない?」
そう思われても仕方のない言い方をした。ふるふると首を振った私を見て少し表情が柔らいだ気がするけど、なんだかこのまま絆されてしまう気がして怖かった。
咄嗟に背を向けて歩き出すと
「…っ」
『な、なに?』
そんな声で呼ばないで…引き止めないで。
「あ、や…えっと」
『…赤葦くんが心配するから私帰らないと。』
「そう…だよな。引き止めてすまん。また明日学校で。」
『うん、また明日ね』
私には赤葦くんがいる。彼を心配させちゃいけない。なのにどうしてこんなに後ろ髪を引かれるような気持ちになるんだろう。
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「…さん、さん」
『っはい』
「ぼーっとしてどうしました?」
『あ、ううん。ぇと何の話だっけ…』
あの夜を思い出してぼーっとしてしまう事が度々ある気がする。
「俺たち付き合って1ヶ月半くらい経ちましたよね」
『うん、そうだね』
「その…もっとあなたに触れたいです…」
『えっと…』
「手も繋いだことないじゃないですか。」
『そう…だね?』
「繋ぎたいです、手。」
真剣な目をして私の顔を覗き込む赤葦くんの頬は紅く染まっていた。