第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
このまま家にいたら泣いてしまいそうだった。明日も学校だし目腫らすわけにいかない。
散歩でもすっかな…。
と2人で何度も歩いた道。何度も寄り道した公園。家にいても外にいても考えるのはのことばっかりで…どうしたら忘れられんだよ…くそ…っ。
『うん、うん、あははっそうなんだ〜』
あ、れ…この声…幻聴か?
『赤葦くんまだ寝ないの?試合したから疲れてるんじゃ…』
あぁ…今日の夜赤葦と電話するっつってたっけか…。何でよりによって外でしてんだよ…嫌がらせですか。ほんと…キツいって。
『…あれ?』
「あ…こんばんは。」
ぼーっとベンチに腰掛ける俺に気がついた彼女がピタリと止まる。
《さん?どうかしました?》
彼女の手に握られている携帯電話から聞こえる声は紛れもなく赤葦。
「あ、ううん。何でもないよ。」
《それならいいんですけど…ていうか今外です?》
『ぇあ…うん』
《夜に1人で外出るの危ないからやめてくださいって俺何回も言いましたよね》
『でもこの時間の外は気持ちいいんだよ〜』
まるで俺が居ないみたいに赤葦と会話を続ける。彼女を心配するのも、声が聞きたくなって夜に電話をするのも…俺だけの特権だったのに。
「俺がいるってバレたくない?」
彼女の携帯が拾わないくらいの声量で聞く。静かにふるふると首を振る。
《さんそろそろ家戻ってください。心配なんで。》
『うん、分かったよ。じゃあそろそろ家戻る…おやすみ赤葦くん。』
《はい、家着いたら連絡くださいね。》
『うん』
《おやすみなさい》
『おやすみ』
携帯電話を耳から離した彼女が俺にくるりと背を向けて家の方へと歩いていく。
「…っ」
『な、なに?』
咄嗟に引き止めたものの続く言葉を用意していなかった。
「あ、や…えっと」
『…赤葦くんが心配するから私帰らないと。』
「そう…だよな。引き止めてすまん。また明日学校で。」
『うん、また明日ね』
1度も目が合わなかった。すぐそこにいたのにすごく遠くにいるみたいで、触れちゃいけないような気がした。