第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
何も考えられない。
考えたくない。
が赤葦の彼女?
1か月前って…前回の練習試合があったのもそれくらいか。あのあとからか。
いつか伝えようと思っていた。
誰かにとられたらって考えていたはずなのに。心のどこかで戻れると思っていたのかもしれない。時間をかけて距離を…彼女の心を取り戻せると思っていた。
「クロ」
「…」
「ねえクロってば」
「…ぁあ、ごめん。なに?」
「もう行っちゃったよ」
「あ…れ、ごめん気付かなかった。」
ぐるぐると考えているうちに分かれ道を通り過ぎていたらしい。
「大丈夫?」
「いや…結構キツいです」
「クロからは聞きづらいかと思って俺が聞いちゃったんだけど」
「うん、俺は多分聞けないから…研磨が聞いてくれて助かりました。」
研磨と話してるのに頭では別のことを考えているみたいな…変な感覚。どうしたらいいのか分からない。
「俺ん家泊まってく?」
「いや…ちょっと1人になりたいかも。ごめん。」
「分かった。まあ来たくなったら来て。」
「ありがと。」
研磨とはお隣さんだからすぐにでも会える距離。慰めて欲しくなったら意識せずとも勝手に体が向かうだろう。
が赤葦の…彼女…。頭の中はそればっかりがぐるぐると占領していて、鈍器で殴られたみたいな衝撃がある。
こんなに好きなのに。なんで伝えなかったんだろう。誰かにとられるくらいなら…振られた方がマシだった。
家に着くなり自室に直行して制服のままベッドに寝転がる。携帯のフォルダを中学時代まで遡るととの写真で埋め尽くされていて、彼女との思い出を俺は消すことさえ出来ずに時折見返していた。
写真にうつる俺たちは楽しそうで幸せそうで……あぁ別れたくなかったな…っていつも思うんだ。なんであのときもっと食いさがらなかったんだろう。別れたくないって何度も何度も言えばよかった。なのに俺より辛そうな顔をする彼女にそんな事言えなかった。
俺だけに向けられてた笑顔も何もかも全部…これからは赤葦のものなんだな。ハグもキスもそれ以上も……考えただけで苦しくて心臓を握られているような感覚に陥る。
「痛えな…」