第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
女の人と2人きりで出かけるのは初めてだ。
自分から誘ったのも初めて。
こんなに心が浮つくのも初めて。
『赤葦くん何飲む?』
「どうしよう…メールで聞いてたさんのお勧めにしようかな。」
『そしたらえっと…ここはカフェラテかハーブティーだね。あと、フレンチトーストがすごく美味しいんだけど結構大きいんだ…。』
「じゃあ俺カフェラテにします。フレンチトースト頼みます?」
『食べたいなぁ…赤葦くん一緒に食べてくれる?』
「もちろんですよ。俺も気になりますし。」
2人で同じものを一緒に…好きな人と一緒に食べる、のか。
『赤葦くん?』
「はい」
『難しい顔してる…どうしたの?』
「あ、いえ。フレンチトースト楽しみですね。」
『うんっ』
嬉しそうに返事をする彼女の笑顔が可愛らしくて、先輩だということを忘れそうになる。
「ほんとだ、結構大きいですね。」
運ばれてきたフレンチトーストは彼女の言った通り大きくて、女の人が一人で食べるには確かに多いかもしれない。
『でもすっごい美味しいの!たべてみて?』
丁寧に切り分けてくれたフレンチトーストをフォークに刺して口元へと運んでくれる彼女。こんなことが合宿でもあった。焼きマシュマロ…思い出すだけで心がふわふわとする。
『食べないの…?』
「あ、いえ。いただきます」
彼女から差し出されフレンチトーストを口に含む。
『どうかな?』
「とっても美味しいです。さんも食べてください。」
『うん!』
本当に美味しそうに食べる人だな。一緒にいる俺まで幸せな気持ちになる。
「さん口の横にクリーム付いてますよ」
『え、あ…ほんとだ。恥ずかしい…』
「可愛い」
『え?』
あれ、声に出てた。
「あ、いや…可愛いなって。」
『あ…ぅん。』
思わず口からこぼれた言葉とはいえ、頬をほんのり紅く染める彼女をみると期待してしまう。もしかしたら少しは意識してくれてるんじゃないかって。
「そうだ、ここ出たら行きたいところあって。付き合って貰えませんか?」
『もちろんだよ!』
今日は初めてのデート。ちゃんと意識してもらわないと。