第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
「どっか行きたいとこでもあんの?」
『ううん。特にないよ。鉄朗は?』
「え、俺?」
まだ2人でいたいし。なんかいいとこねえかな。
『ない…?』
「あ、あるよ。待ってちょっと待って」
『うん』
「あ、あそこは」
『どこー?』
「ほら、前に言ってたとこ。雑貨屋さんだっけ?色んな国から可愛い雑貨が集まってるって言ってなかった?もう行きました?」
『あーっ!この前行ってみたら定休日だったの…行きたい!』
「ん、じゃあ行こ」
『行きたいけど鉄朗はいいの?』
「別に俺はどこだっていいよ。それに雑貨屋とか女の子とじゃなきゃ入らないですしね。」
『ありがとっ』
と付き合ってた頃の記憶はいつだって昨日のことのように思い出せる。彼女の好きな食べ物。好きな映画。好きな季節。行きたいと言って場所だって欲しいと言ってた物だって…俺は何でも覚えてる。何も変わってない。ただひとつ変わったのは彼女の “ 好きな人” が俺ではなくなってしまったこと。俺にとって1番変わって欲しくなかった彼女の “好き” はある日突然消えてなくなってしまった。
電車に揺られて数十分。駅から少し歩いて路地に入ると海外の建物のような可愛らしい雑貨屋さんが現れた。
「ここ?」
『うん、今日は開いてるー!よかったあ』
足取りの軽い彼女に続いて店内に入ると、カフェと同様女の子ばかりの空間。何組かカップルもいるみたいだけど、俺達も周りから見たら付き合ってるように見えてるのかな。
『これ可愛いなぁ…』
彼女が手にとったのは黒猫のキーホルダー。
「え、それ可愛いか?」
『可愛くないかな?』
「なんか目つき悪くね」
『えーそれが可愛いんだよ』
「ふーん。」
なんか俺みたいだなあ…なんてしょうもないこと考えて、ちょっと期待してしまうのはやっぱり自惚れでしかないのだろうか。
他にもいろいろ見て回ったけどやっぱり黒猫が気になるらしく、それを手にレジへと進む彼女。その手からキーホルダーを奪って店員さんにお会計をお願いする。
『え、てつろ?』
「いつも頑張ってるからお礼ですよ」
『鉄朗たちだって頑張ってるのに』
「いーの。合宿も1人で大変だったろ。大人しくご褒美もらっときなさいよ。」
『…ありがとう!』
この笑顔が見れるならなんとやらですよ。