第10章 約束 ( 北信介 )
宮くんの家の最寄りまで送ってくれると言ってくれた彼と並んで歩く。当たり前のように繋がれた手。振りほどくことはしなかった。
「さんの手ちっこい」
繋いだ手をまじまじと見つめる宮くん。
『前も同じこと言っとったで』
「なになにさん俺と初デートの日の会話覚えてるん?」
『別にたまたまやし。』
「たまたまでも嬉しい。ちゅーしてええ?」
『ちょ…っとここ外…ッ!』
くいっと手を引かれていとも簡単に唇を奪われる。あんなに避けていたのが嘘みたいだ。
「さん顔赤なってんで?」
『あのなぁ宮くんのせいやで?』
ほんま振り回されてばっかりや…。
やけど不思議と嫌な気はせん。信介んとは違うタイプやけど、彼なりの真っ直ぐな愛が今は心地いいとさえ思う。
「北さんのとこ帰ってもさんが俺のこと思い出せばええのにって思ってます。」
『…そんなすぐ切り替えられるほど冷めてへんし器用ちゃうよ。』
駅に着いても私の手を離す気配がない彼の手を解こうとしてみる。それでもきゅっと掴んでなかなか離してくれない。
『宮くん?』
「あー帰したくない…」
『…でも帰らんと。』
「分かっとる…気をつけて帰ってねさん。大好きです。」
『ありがとう。じゃあ電車来るから行くね。』
名残惜しそうに離された手を引いて頬に触れるだけのキスをする。何だかとても恥ずかしくて急ぎ足で改札を通った。
ホームへ行く前にちらりと振り返れば頬を手で抑えて放心した宮くんがおった。ひらひらと手を振るとハッとして手を振り返してくれる。
流れる景色を見ながら宮くんへの気持ちにゆっくり蓋をする。信介くんの元へ帰るんやから…少しでも切り替えんといかん。うまいこと切り替えられたらええのにな…。