第10章 約束 ( 北信介 )
『ちょっと宮くんいつまでヘコんでるん?』
「いや…あれはさすがにダサいやろ…」
あー…くっそー。
俺があまりにもヘコんどるから一緒にお風呂に入ってくれたし、服を着た今も彼女に抱かれて頭を撫でられている。それはそれで幸せやなぁとか思ってんねんけど…。けど…っ。
『全然ダサくないし可愛かったで』
「可愛かったて…ダサいってことやん…」
『ちゃうって。私に名前呼ばれたんがそれだけ嬉しかったってことやろ?変なタイミングでごめんやで侑くん。』
「な…っ、また…名前!
もぅ…俺で遊んでません!?」
『あははっ、宮くんが可愛くてつい』
「…こんな俺も好き…ですか?」
こんなことを聞くのは怖かった…。だけど浮ついた雰囲気に任せて今なら聞けると思った。
『…ぅん、好きやで』
困ったように、でも確かにそう紡いだ。
「…っ俺も好きですさん。
2番目でもええから…俺をそばにおいて。」
『…うん』
ぎゅっと小さな身体を抱きしめて貴方に俺を刻む。
「…もう帰っちゃいますか?」
俺の腕からすり抜けて髪を結び直す彼女。帰り支度を始めたように見えて…途端寂しくなる。
『うん、信介くんが待っとるから帰る。
またね宮くん…お邪魔しました。』
最後に乱れた制服を直して玄関で靴を履く彼女。幸せな時間てほんまあっという間やな。これからこの人は北さんのとこに帰るんや。所詮俺は2番目…自分で望んだことやけど…叶うなら俺だけを見て欲しい。
ドアに手をかけたさんが振り返って またね と手を振る。
「さん…っ」
『うん?』
「もっかい俺の名前…呼んで」
『侑くん…?』
「もっかい」
『侑くん』
「もっかい…」
『侑く…んぁッ』
何度も俺の名前を呼んでくれる彼女の唇を塞いだ。後頭部と腰を抱いて逃げられへんように…離れていかへんように…北さんの元へ戻っても俺を思い出してくれるように。
『んは…っあ、もぅいきなり…ッ』
「ほんまめっちゃ好きやで…」
『ん…分かっとる。』
「送ってってもええかな」
『や…でも多分信介くんが最寄りまで来るから。』
「じゃあ駅まで…」
『ん、分かったよ』
大好きすぎて苦しい。あなたの心も身体も全部欲しい。でも今はこれでいい。十分大きすぎる進歩やから。