第10章 約束 ( 北信介 )
一瞬俯いた視線が再び俺に戻って振り絞るように紡がれたさんの声。
『信介くんは…私の事絶対離さんと思うで。』
「でもさん俺の事少しは好きでしょ?」
北さんのことをずっと追いかけてきたさんは俺に少しでも揺れてしまったことで悩んどる。困らせたくないのに俺を見て欲しくて諦めつかんねん。
『これから信介くんの家行かんとやから…もう解散しよか。』
「まだ雨降っとるよ」
『…もう止むよ』
「さんお願い。もう突き放さんとって。」
さんと話せへんかった期間めっちゃ辛かってん。見かける度に心臓ぎゅうってなって…好きが募るばっかやった。
『私は…「ねえ好きです。」
何かを言いかけた声を遮って思いを伝える。そうじゃないと突き放される気がして。
「好き。めっちゃ好きやさん。」
小さなテーブルを挟んで向かいに座っている彼女の隣までいき、顔をのぞき込むと頬に涙が伝っている。
「…泣かんといて。どうしたら涙とまりますか?」
『も…う、追いかけてこんといて…』
「またそれですか?
…嫌やったら殴ってでも逃げてさん」
涙の伝う頬に手を添えて吸い込まれるように唇を寄せた。
『…っ、ん』
「すんません、もう我慢できんくて」
『な、なに…したの…っ』
大きな瞳を見開いてスカートの裾をきゅっと握っている。
「俺のファーストキスです。絶対さんとって決めとった…から。」
『…っ何言って、るの』
「好きになってや俺の事。」
もう一度顔を近づけるとさすがに逸らされてしもうた。
『だめ宮くん…っ』
「逃げんといて」
揺れた瞳がゆっくりと俺を視界に映す。そんな顔されたら俺止まれんのやけど。
『だめだよ宮く 「好き…」
『…っん、ん』
「さんの頭ん中俺でいっぱいになればええ。」
『も…ばか宮くん…っ』
「ほんまめっちゃ好きですさん。北さんのとこ行かんといて…?」
まだ俺のものちゃうのに北さんのところへ行かんといて欲しいなんて独占欲ばっかり湧き上がってきてキスまでしてしもうた。